研究概要 |
我々はこれまで、膵胆管系腫瘍において一連のムチン性糖蛋白抗原(主にMUC1,MUC2,MUC4,MUC5AC,MUC16)の発現様式が予後を含む臨床病理学的事項と密接に関連すること、その発現がエピジェネティックな制御をうけていることを明らかしており、現在は、これら知見を利用した難治性膵胆管腫瘍の早期かつ悪性度診断システムの構築を進めている。 このような背景のなか、本研究では、7番染色体上に位置するMUC17遺伝子のエピジェネティクス発現制御機構解明を試みた。※MUC17(正常な膵組織では非発現)は膵癌になると高率に発現すること(J Biol Chem.2006)、そして転移性の膵癌ではさらにMUC17発現が亢進しており、独立した予後不良因子であることが報告されている(Cancer Sci.2010)。 その結果、MUC17は 1)プロモーターの転写開始点近傍のCpG-DNAのメチル化状態と2)同領域に存在するヒストンH3の9番目のリジン残基における化学修飾による制御を受けていることを明らかにした。さらに、3)マイクロRNA(miRNA)に関してもMuc17の転写後制御に関わっている可能性を見いだした(Kitamoto S,et al. Glycobiology 21(2):247-56,2011)。 膵臓がんは癌の中でも極めて悪性度が高く、PET-CT等の最新の機器を用いても、いまだに単期発見どころか、治癒を望める段階での診断は不可能であることが多く、それゆえ、手遅れになる可能性の高い最も難治性の癌である。本研究で同定された機構のなかでも、特にDNAメチル化制御領域は、臨床検体においてもMUC17の発現を反映する可能性が示唆されており、今後、種々の臨床材料を対象に高感度なメチル化解析法を用いて、膵癌おける悪性度診断のバイオマーカーとしての有用性の評価を進める必要がある。
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