研究概要 |
近年、MUC17(正常な膵組織では非発現)が膵癌になると高率に発現すること(Moniaux N. et al, J Biol Chem, 2006)、そして転移性の膵癌ではさらにMUC17発現が亢進しており、独立した予後不良因子であることが報告されている(Hirono S. et al, Cancer Sci. 2010)。昨年、我々はこのMU17遺伝子が、DNAメチル化やヒストン修飾を介したエピジェネティクス制御を受けることを明らかにしている(Kitamoto et al. Glycobiology, 2011)。 本年度は、さらにMUC17と癌微小環境(特に、膵がんで顕著な特徴の一つである低酸素環境)との関係に注目し、膵がん細胞及びヒト臨床検体を用いた実験により以下のことを明らかにした。MUC17は(1)低酸素環境により、MUC17発現が転写/タンパクレベルで発現上昇すること、2)HIF1-alphaがMUC17のプロモーターの転写開始点近傍のHypoxia responsible element(HRE)に結合して転写制御しうること、(3)HREに含まれるCpG-DNAのメチル化が、HIF1-alphaのプロモーターへのアクセスが制御を介して転写活性に影響を与えうること、(4)実際、膵がんの腫瘍部や非腫瘍部におけるHREのメチル化はMUC17の発現量と相関する(p=0,008943)ことが明らかとなった(Kitamoto S, et al. PLoS ONE, 2012)。 膵臓がんは癌の中でも極めて悪性度が高く、PET-CT等の最新の機器を用いても、いまだに早期発見どころか、治癒を望める段階での診断は不可能であることが多く、それゆえ、手遅れになる可能性の高い最も難治性の癌である。本研究で同定された機構のなかでも、特にDNAメチル化制御領域は、臨床検体においてもMUCI7の発現を反映する可能性が示唆されており、今後、種々の臨床材料を対象に高感度なメチル化解析法を用いて、膵癌おける悪性度診断のバイオマーカーとしての有用性の評価を進める必要がある。
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