研究課題/領域番号 |
11J09383
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田縁 俊光 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 鉄系超伝導体 / 粒子線照射 / 欠陥形状 / 磁束ダイナミクス / 超伝導転移温度 / 臨界電流密度 / Boseグラス / 磁気緩和 |
研究概要 |
本研究は銅酸化物高温超伝導体で明らかとなってきた磁束ダイナミクスが鉄系超伝導体でも統一的に理解できるか、さらにこの系では臨界電流密度をどこまで上昇させられるかを明らかにするために行なっており、基礎的な研究として興味深いだけでなく、実用線材の設計に大いなる指標を与える研究である。ここで研究を進める上で必要不可欠なことが鉄系超伝導体に対する粒子線照射であるが、本年度は高エネルギー2GeVのAuを照射する機会を得ることができたため、平成25年度に予定していた照射を前倒しして行った。元々は将来ある照射実験に先立って、実験手法を確立させることを平成23年度の目標にしていたが、これを後に回して試料を準備することを優先したものである。そして照射した試料を実際に評価した。これまで得られていた試料の結果とも併せて本年度は「重イオン照射のエネルギー依存性」をAuイオンとXeイオンで評価してまとめ、日本物理学会などで報告した。具体的には超伝導転移温度の抑制される割合を各核種で評価し、核種間で異なる抑制度を欠陥形状の違いから議論した。特に興味深い振る舞いを示した低エネルギー300MeVのXe照射においてエネルギー依存性の間接的な効果である厚み依存性を観測した。これは低エネルギーゆえに起こるdisordered cascade欠陥によるものであると結論付けた。さらにこれまで得られた最高の臨界電流密度は200MeVのAuイオンをマッチング磁場10kGまたは20kGの照射量で打ち込んだ場合であるが、これを超える可能性があると考えられた高エネルギー照射2GeV Au照射が実際には半分程度にしか到達しないという結果を受け、欠陥形状と臨界電流密度の関係性をより深く議論した。現在、Y系銅酸化物高温超伝導体で柱状欠陥を導入した場合に存在が確認されたBoseグラス相が鉄系超伝導体の場合でも存在するかをいくつかの試料で磁気緩和測定から磁束ダイナミクスを決定することによって議論している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
元々の予定では本年度は実験装置を開発することを主に行う予定であったが、照射実験を前倒しして行う機会に恵まれたため、順番を入れ替えて行った。結果としては3年間で到達しようとする研究進捗度としておおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究を進める手順を変更したため、より詳細なデータを得るための実験手法の確立を来年度に行う。手順入れ替えを除けば基本的には予定通りに行う。
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