研究課題
プロトン照射は点欠陥を作ることが期待され、欠陥の中では最も基本的なものである。高温超伝導体に対する点欠陥の効果として、超伝導対破壊効果と点状ピニング中心導入効果の2つが重要であると申請者は考えている。点状欠陥は基本的な欠陥であるがゆえに応用上も容易に導入されるが、それは超伝導対破壊による超伝導転移温度抑制と、ピン止め中心導入によるピン止めエネルギー上昇の応用上では2つの相反する効果を生むと考えられる。最終的に臨界電流密度を上昇させることが出来るかは超伝導体のオーダーパラメータの対称性や欠陥と磁束間の相互作用によって決まるため、非自明である。これを明らかにするために、低温(4K程度まで到達)でプロトン照射を行い、かつ抵抗測定をするための装置開発を行った。これはパルスチューブ冷凍機をベースにしたものであり、これまでのHeflow型と比べると格段に経済的で、また目下のHe問題を鑑みると非常に重要なステップであった。申請段階の磁気光学法用の装置開発より粒子線照射実験が必須な申請者の実験にとっては重要であると判断し、これを行った。本年度はBa(Fe,Co)2As2に対するプロトン照射の効果を論文や学会で発表したほか、(Ba,K)Fe2As2に対しても点欠陥導入によるTc抑制の効果やプロトン照射前後の磁束ダイナミクスを測定し、学会等で発表した。一方で一次元的相関を持つ柱状欠陥は磁束と同じ形状を持つことから強いピン止めエネルギーを持つ欠陥であることが期待されるが、磁束のディピニング過程や傾いた磁場に対する応答の特異さが銅酸化物系高温超伝導体で指摘されており、これが鉄系超伝導体でも当てはまることであるのかは非常に興味深い。これは銅酸化物系においても理論が実験を完全には説明しておらず、鉄系超伝導体での振る舞いが明らかになることで、新たな展開を見せる可能性があるからである。申請者はLosAlamos研究所との共同研究によってU照射したBa(Fe,Co)2As2における角度回転磁化測定を行い、いくつかの特徴的な振る舞いを発見した。この結果は来年度論文として発表し、その他学会等でも発表する予定である。
2: おおむね順調に進展している
自ら設計した装置によっていくつかの観点から粒子線照射効果を明らかにしており、最終的な研究目的達成に着実に近づいている。
現在進行中の実験を継続し、予備的な結果が出ている部分を再測定によって明らかにし、また昨年度までに行った成果を発表できるよう解析等を進める。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (6件)
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