研究概要 |
野外で高pCO_2環境が再現されている硫黄鳥島において,4地点に多項目水質計を設置し,面的な環境変動をよみとった.結果,波浪が高くない時,低潮時において,群集が変化することに合わせ,pHも低下することが分かった.これは,また,pCO_2以外の要因が群集の分布変化に起因している可能性について検証するため,海水中の固形硫黄量,有機炭素・有機窒素量,栄養塩について,試料を採集し分析を行った.その結果,ウミキノコの密生に起因する要因としてpCO_2以外の要素で積極的なものは検出されなかった.以上の結果は,申請者が立てた,pCO_2が群集を規定するという仮説を指示する結果である.硫黄鳥島において群集分布がpCO_2によって規定されているということは,将来のCO_2増加による海洋酸性化でも群集シフトが起こりうる可能性を示唆している. 飼育実験については,硫黄鳥島の同じ湾内において高pCO_2環境で密生しているソフトコーラルのウミキノコ,より低pCO_2環境で生息している同じくソフトコーラルのカタトサカ,温泉の影響がほぼ無い範囲で生息する造礁サンゴであるエダコモンサンゴを採集して,その3つの種を人為的に高くしたpCO_2下で飼育し,代謝の変化を測定することで,酸性化に対する耐性について,3種を直接比較することを目的としていた.しかし,実験途中でウミキノコが死亡してしまうという事態が発生してしまった.この原因については,移送,切断,飼育環境の変化について,それぞれ反省点と改善点を整理した. また,これまでの飼育実験を整理し,問題点として,閉鎖系であるために,飼育対象の代謝によって閉鎖中に炭酸カルシウムの飽和度Ωが変化してしまうこと,野外に近い条件で飼育しているために,水温,光量の変化が現れてしまうことが挙げられた.解決法として,より短い時間で溶存酸素とpHを連続的に測定することによって,測定時間を短くすることでΩ・光の変化量を小さくすること,また水温については恒温機を導入する事で一定に保つことで工夫をおこなった.これらを踏まえて,新しい飼育実験の計画を練り直し,来年度についてはより精度の高い,pCO_2に対する代謝量の変化の測定を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2011年は硫黄鳥島におけるフィールド調査と,硫黄鳥島で採集してきたウミキノコとサンゴを対象とした飼育実験を行い,直接両者の海洋酸性化に対する耐性を評価することが目的であった.まず野外調査の方は台風・強風による相次ぐ悪天候の影響で2ヶ月ほど延期されてしまったが,無事に調査を遂行出来,昨年度まで一点だけであった複数地点のデータを得る成果があった,しかし,飼育実験の方では,試験対象であった硫黄鳥島のウミキノコが,飼育期間中に死亡してしまうという事態が起こってしまい,サンゴとウミキノコの比較を行うことが出来なかった,2012年の飼育実験の方法へ反省を活かすために,今回の移動法,馴致の期間,切断,飼育状況について改善点を整理した.
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