研究課題/領域番号 |
11J09475
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池本 晃喜 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 細孔性ネットワーク錯体 / 分子認識 / 配向制御 / 単結晶X線構造解析 / 立体選択的反応 |
研究概要 |
細孔性ネットワーク錯体は結晶であるにもかかわらず、その細孔内は、分子が移動性や反応性を有する擬溶液的環境であるという特長を有する。このことから、細孔性ネットワーク錯体内での反応が近年非常に大きな注目を集めているものの、最先端の研究ですら"溶液系と同様の反応が結晶内でも進行した"という程度であるのが現状である。本研究では、細孔性ネットワーク錯体の分子認識能を用いて基質の配向や反応性を錯体内で精密に制御すること、反応過程を単結晶X線構造によって直接観測することにより、錯体細孔空間をこれまでにない高度に制御された反応場として展開することを目指す。 その第一歩として、二つの反応基質の配向が反応性や選択性に大きな影響を与えるDiels-Alder反応を細孔性ネットワーク錯体結晶内で行った。ヨウ化亜鉛と3座トリアジン配位子から形成される細孔性ネットワーク錯体に、ジエンおよびジエノフィルを順次包接した。その結果、錯体の分子認識能により、両者の配向が精密に制御され、Diels-Alder反応に適した位置に1:1包接されることを見出した。 この包接錯体を加熱することでDiels-Alder反応を行い、その過程を単結晶X線構造解析により精密に追跡することに成功した。得られた生成物は、基質が反応前にとっていた配向から予測される通りのDiels-Alder反応生成物であった。 興味深いことに、錯体内反応では、溶液反応と比較して劇的な反応性の向上やジアステレオ選択性の反転が観測されることが分かった。これらの実験事実は、得られた単結晶X線構造から合理的に説明することができ、反応機構にまでも迫れることを示した。 以上の成果から、細孔性ネットワーク錯体を反応場として用いることで、溶液では実現困難な基質の配向制御、X線直接観測、立体選択的反応が可能であることが実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究によって、「9.研究実績の概要」で述べた研究目的の概念の実証は達成できたと言え、順調に研究が進展しているといえる。より一般性を示すために、数多くの反応へ適用するということが、これからの課題であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
細孔性ネットワーク錯体の細孔内を高度に制御された反応場として一般的に用いることが出来ることを示すために、数多くの反応へ適用するということが第一の課題である。細孔表面に望みの官能基、すなわち基質と相互作用できる部位を導入する手法は既に確立されており、今後多くの反応系に適用していくにあたり大きな障害はないと考えられる。 またさらなる発展として、不安定中間体を経由する反応に取り組む。そのような反応の一例として、オゾン分解に焦点をあて、世界初の一次オゾニドおよびクリーゲー中間体のX線構造解析を目指す。これまでに培った配向および反応性制御の手法を応用し、適当な置換基を有するオレフィンと細孔との相互作用を設計することで、これらの不安定中間体を長寿命化する.
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