研究課題
本研究は全身動作の知覚-運動協調や関節間の協調には、生得的に安定または準安定の協調パターンが存在することを明らかにした。安定、準安定の協調パターン間の相転移や、動作周波数の上昇条件と下降条件で位相角のプロファイルが異なるヒステリシス現象は全身リズム動作がリズミカルな運動に共通の力学系法則に支配されていることを示す証拠である。またダンサーの相転移周波数の方が高かったことや、ダンサーだけが無意図的な引き込みに抵抗できたことは、人間のリズミカルな運動の学習が安定な協調パターンへの相転移や引き込み(神経系に内在する制約)を克服する過程である(Swinnen, 2002)ことを示す。また全身リズム動作熟達の神経生理学的背景には、筋の共収縮低下が存在することを明らかにした。熟達度を分ける相転移周波数や、共収縮指数を非線形力学系の数理モデル(Haken et al. 1986)に組み込むことで、全身リズム動作の熟達度を表現することが理論的には可能である。本研究で用いた課題動作は実際のパフォーマンスと関わるスキル動作であるために、パフォーマンスと関わる運動の学習プロセスの記述や、トレーニング方法の開発などへ応用が可能であると考えられる。また本研究は、ストリートダンスの運動制御研究として、ストリートダンサーやダンスの教育者に対して示唆を与える。熟練ストリートダンサーの特徴として、生得的に不安定な協調パターンの安定化があげられる。全身リズム動作の協調パターンの形成には動作周波数(速度)が関わっているため、速度に着目した練習が効果的であると考えられる。また熟練ダンサーは筋の共収縮レベルが低いことが観察されたことから、脱力、リラックスを含めた練習が効果的であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
全身動作の知覚-運動協調における新たな相転移現象を発見し、その振る舞いを定量化し、定性的なモデル化まで行った。今後、定量的にモデル化を進めることで、本研究の大きな発展が予想される。
全身リズム動作の熟達度を測る指標はまだまだ少ない。今後、全身リズム動作をゆらぎ解析や、非線形力学系の再起定量化解析等を用いて解析することで、熟達した全身リズム動作の特徴を数理モデルで記述していくことを目標とする。
すべて 2011 その他
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Human Movement Science
巻: 30 ページ: 1260-1271
doi:10.1016/j.humov.2010.08.006
Journal of Advanced Computational Intelligence and Intelligent Informatics
巻: 15 ページ: 942-953
The Journal of Strength & Conditioning Research
巻: (In press)
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_230808_j.html