研究概要 |
1,Hempelによって導入されたヒーガード分解の"距離"の概念は,どれくらい効率よく3次元多様体の断面・(ヒーガード曲面)が取れているかを測っていると共に,3次元多様体の複雑さも捉えていることが多くの研究者によって明らかにされており,この概念を利用することで3次元多様体に関する様々な問題が解決されている.本研究では,これまでにgraphicの性質とヒーガード曲面上の高さ関数から得られるReebグラフを用いることで,既存のヒーガード分解の距離の上限を更に精密化する評価方法を与えていたが,本年度の研究では,研究計画の目的のひとつに上げた,距離がヒーガード曲面の種数のちょうど2倍になるようなヒーガード分解を許容する3次元多様体の性質を調べるために,この評価方法を用いて,そのような場合のヒーガード曲面の特徴付けを行った。 2,本研究のもう1つの目的は3次元多様体のgraphicの概念を更に発展させることにある.現在,3次元多様体のGraphicやヒーガード分解の距離の概念は,3次元多様体内の絡み目の橋分解に対しても拡張されているが,絡み目の橋分解から構成されるgraphicを用いることで橋曲面の距離の上限が与えられることが知られている.本年度の研究では2つの異なる絡み目の橋分解から構成されるgraphicの新たな性質を見つけ,それを応用することによって与えられた2つの橋曲面が球面である場合には,既存の距離の上限が改良できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画に従い,距離がちょうど種数の2倍となるような種数2のヒーガード曲面を調べ,そのようなヒーガード分解を許容する3次元多様体の性質を調べるためのきっかけが得られた.今後もこの方針を推し進めたい.また,橋曲面から構成されるgraphicを利用することで,graphicの新たな性質を見つけることができた.
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今後の研究の推進方策 |
具体的なヒーガード曲面からgraphicを構成することは,非常に難しい.一方で本年度の研究で成果が得られた,絡み目の橋分解から得られるgraphicを調べることは具体的なgraphicの構成方法を導く上でも有効ではないかと考えられる.今後は研究計画の通り,与えられたヒーガード曲面,橋曲面のgraphicを構成する方法を導き,3次元多様体,特に距離の問題への応用を目指す.加えて,本年度の研究から分かった,距離がヒーガード曲面の種数のちょうど2倍になるようなヒーガード曲面の特徴を用いて.そのようなヒーガード曲面を許容する3次元多様体の性質を調べる.
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