研究課題/領域番号 |
11J09545
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
菅原 勇貴 東京工業大学, 大学院・総合理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 分子認識ゲート膜 / DNA / アプタマー / 感温性ポリマー / N-イソプロピルアクリルアミド / 荷電 / 柔軟性 / センサー |
研究概要 |
本研究は、医療現場における簡易検査・診断に用いる、多様な標的分子を特異的に検出する新規なセンサー材料を目指し、DNAアプタマーを用いた新規な分子認識ゲート膜の開発を行う。当ゲート膜は、レセプターとしてDNAアプタマーを、アクチュエーターとして感温性ポリマー(ポリN-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)を持ち、標的分子の認識により多孔質膜の細孔の開閉を行う。今年度は、まず溶液中の塩濃度と塩種類を変えてDNA修飾PNIPAM凝集挙動の観察を行い、DNAの1本鎖/2本鎖の変換によるPNIPAMの凝集挙動の変化はDNAの持つ荷電量の増減が要因であると示した。また溶液中の塩濃度とPNIPAM鎖中のDNA固定率を変えることで、1本鎖DNA/2本鎖DNAの変換によるPNIPAMの凝集の方向を逆転させることができると判明した。さらに様々な塩濃度とDNA固定率の条件下での凝集の観察から、上記2つの凝集現象の起こる条件を特定した。このことで用途に応じて2つの凝集現象を選択的に発現させることが可能になり、DNA修飾PNIPAMを応用した分子認識ゲート膜や他の材料開発に向けた極めて重要な設計指針が得られた。続いて、DNAアプタマーを用いてタンパク質分子の特異的検出をリニアPNIPAMで行った。その結果、アプタマーがタンパク質であるトロンビンを認識することでPNIPAMの凝集挙動を変化させることに成功した。またこの結果から、DNA修飾PNIPAMをグラフトポリマーに持つゲート膜においても同様の挙動が起こせると期待された。そしてDNA修飾PNIPAMをグラフトポリマーに持つ分子認識ゲート膜の作製を行い、ポリマーへのDNAの固定が膜細孔の開閉挙動へ影響するかを膜の水透過性の測定により評価した。その結果、未固定化膜に比べ1本鎖DNA固定化膜ではPNIPAMが収縮しにくくなり細孔の開放が抑制されることが観察された。これにより固定DNAによって分子認識ゲート膜の細孔の開閉を制御できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、DNA修飾感温性リニアポリマーの1本鎖DNA12本鎖DNAの違いによる凝集挙動の変化がDNAの荷電の増減に起因することを明らかにし、また溶液中の塩濃度とポリマー内のDNA固定率で2通りの凝集現象に切り替え可能であることも発見した。そしてアプタマーを用いて標的分子トロンビンの有無によるポリマーの凝集挙動の変化を起こすことにも成功した。さらにDNA固定化グラフトポリマーを細孔内に持つゲート膜の作製も行えた。以上、材料開発と現象解明の双方で多くの成果が得られ、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はアプタマーの分子認識以外の刺激を用いたDNA修飾感温性ポリマーを応答させることも目指す。これまでの研究で、DNAの持つ荷電と分子鎖の柔軟性が感温性ポリマーの凝集に大きく影響することが判明した。よってDNAの荷電や柔軟性を変化させるような刺激を加えることにより、感温性ポリマーの凝集を制御することを目指す。また上述のDNA修飾感温性ポリマーの凝集現象を応用した分子認識ゲート膜の開発を進め、温度、イオン強度、相補的DNA、タンパク質など多様な刺激を認識して透過性を変化させることを目指す。
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