研究課題/領域番号 |
11J09581
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
菅井 直人 東京工業大学, 大学院・理工学研究科(工学系), 特別研究員(DC1)
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キーワード | 環状高分子 / ポリ乳酸 / ステレオコンプレックス / オレフィンメタセシス / DSC / WAXD / SAXS |
研究概要 |
【1.緒言】今年度は、トポロジー変換という「高分子のかたち」に立脚した新たな刺激応答性分子システムの開発を検討した。具体的には、環状ポリ乳酸の光開裂により環状から直鎖状へのトポロジー変換を行うことで、ポリ乳酸ステレオコンプレックスの材料特性制御を試みた。ポリ乳酸ステレオコンプレックスは、光学異性体であるポリ。L-乳酸(PLLA)とポリ-D-乳酸(PDLA)からなる結晶で、どちらか単一の結晶と比較し融点が約50℃上昇することが知られている。 【2.具体的内容】光開裂性環状ポリ乳酸の合成には、UVにより光開裂するオルトニトロベンジルエステル部位を利用した。環化反応には、修士課程までの研究において多環状高分子の合成に有用であることを明らかとしたメタセシス反応を適用した。環状PLLAおよびPDLAの合成にそれぞれ60%程度の収率で成功した。直鎖状PLLAとPDLAのブレンドの融点は209。Cと、一般的なステレオコンプレックスの融点を示した。一方、環状PLLAとPDLAのブレンドの融点は167℃となり、同じ分子量であるにも関わらず、環状と直鎖状という違いだけで融点が40℃以上も変化するという特異な現象を発見した。さらに、その環状PLLAとPDLAのブレンドに対し、UV照射を用いた光開裂行ったところ、融点は211℃となった。これは、環化前のブレンドと同等の融点であり、環・直鎖の切り替えによって融点を40℃以上も低下および再上昇させることに成功した。また、X線結晶解析の結果、この融点の変化は環状構造の導入に伴う結晶厚の減少に由来することが明らかとなった。 【3.意義・重要性】本研究は、トポロジー変換という新奇コンセプトを材料設計に応用した初めての例である。(1)高分子鎖1本につき、たった1か所の反応で高分子鎖全体の性質が変化するだけでなく、(2)刺激の前後で化学構造や分子量は保持されるという特徴を有しており、添加剤の使用や分子量・高分子化学構造の変化といった手法を用いないために工業的にも注目される方法論になるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ポリ乳酸に環状構造を導入することで、当初予想していなかった特異な融点の変化が発現したため。また、ポリ乳酸フィルムにおいても、環状構造の導入により特性の変化が発現していることから、研究が計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、環状構造の導入によるポリ乳酸の融点制御を詳細に分析し、そのメカニズムを明らかとする。また、ポリ乳酸フィルムの力学的特性など、フィルム状態での環状構造導入の効果を調査する。さらに、酵素を用いた環状ポリ乳酸の分解挙動調査など、新しい視点を取り入れた環状高分子の科学を発展させていきたい。
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