研究課題/領域番号 |
11J09634
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
五味 紀真 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | デリダ / エクリチュール / ハイデガー / フロイト / 歴史 / 一神教 / 形而上学 |
研究概要 |
本年度はジャック・デリダの歴史性の概念の基礎となっているマルティン・ハイデガーの歴史概念の分析を第一に行った。年次計画においてはこの分析は修士資格論文で終了する予定ではあったが、デリダおよびハイデガーの歴史概念を詳細に分析することは本研究にとって必要不可欠の事項であり、修士資格論文での歴史概念の分析が本研究全体にとっていまだ不十分であったと感じられたため、この分析を継続して行う必要があった。この成果は、『年報 地域文化研究』第15号に、論文「ハイデガーの思索における『歴史性』と『元初』の問題」として発表された。 あわせて、当初の年次計画でもあったデリダのフロイト論の分析、およびフロイトの『モーセと一神教』の分析も行った。前者としては、『エクリチュールと差異』所収の論文「フロイトとエクリチュールの舞台」、『絵葉書』、そして『アーカイヴの病』の他、『狼男の言語標本』の序文や、ラカン論など、フロイトに限らず、デリダの精神分析についての考察を分析した。また、年次計画では次年度の予定としていたジル・ドゥルーズの著作の分析を始め、デリダとドゥルーズの思想における精神分析の位置付けの比較も行った。この作業によって、『アンチ・オイディプス』および『千のプラトー』のエクリチュール論および資本主義分析の基礎となったドゥルーズの歴史観を明確化することができた。 後者については、ヤン・アスマンの『エジプト人モーセ』の分析を開始した。この著作では、「エジプト」が単に地理的な場所や歴史学的な過去ではなく、また、一神教-形而上学的な歴史にとって単なるひとつの他者ではなく、地政学的な意味で、抑圧されるべき記憶であったということが示唆されている(出エジプトという記憶)。以上のような意味で「エジプト」および象形文字(エクリチュール)という概念は、「オリエンタリズム」とは一線を画すものであると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「歴史」の概念の検討において修士資格論文では汲み尽くせなかった部分があったため、年次計画の実行の前に、ハイデガーの「歴史」概念の再検討を行った。このため当初の年次計画であったデリダのフロイト論の分析を論文等の形で発表することができなかった。しかしハイデガーの「歴史」概念の再検討によって、研究の目的であるあらたな思想史の試みそれ自体の基礎をより強固にすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
デリダのフロイト論とエクリチュールの概念との関係性についての分析を論文あるいは学会発表の形で要約することが、第一の目標である。 次に、ドゥルーズ、ガタリによる資本主義分析におけるエクリチュール論とデリダのそれとを比較、検討する。この作業においては同時に、精神分析に対するデリダとドゥルーズおよびガタリの立場も比較する必要がある。
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