研究課題/領域番号 |
11J09654
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
角前 洋平 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 福祉的貸付 / 世帯更生資金貸付 / 生活福祉資金貸付 / 生活再建貸付 / 生活協同組合 / リベラリズム / 選択と責任 / 不運の除去 |
研究概要 |
1.世帯更生運動についての歴史社会学的考察 生活福祉資金貸付制度(旧称 世帯更生資金貸付制度)設立につながった「世帯更生運動」について、当時の資料等に基づき歴史社会学的考察を行った。本研究により、運動の初期においては、先行研究の指摘するような民生委員活動の「救貧から防貧への転換」は無く、民生委員は貸付制度等を通じて公的扶助(救貧)を補完する役割を担っていたことを明らかにした。また、制度創設当初の世帯更生資金貸付は、世帯更生運動の中で限定的な役割しか与えられておらず、民生委員は複数の低所得者向け福祉貸付制度の「斡旋者」として機能していたことも確認した。成果は、論文「二つの貧困対策-戦後創設期社会福祉制度運用における羈束と裁量、または給付と貸付」として発表した。 2.生活協同組合による福祉的貸付実践の調査 生活困窮している多重債務者に対しての借換資金や、破産等のため金融へのアクセスが困難になった個人への貸付をしている生活協同組合系の「生活再建貸付」の取り組みを調査した。調査を行ったのは東京の生活サポート基金、岩手の信用生活協同組合、福岡のグリーンコープ生活再建事業、である。調査を踏まえた研究報告は、平成24年度に社会政策学会で報告の上、学術論文へ投稿予定である。 3.福祉的貸付についての理論的考察 「選択の尊重」と「不運の除去」を鍵概念とする平等主義的リベラリズム、とりわけ運の平等主義(luck egalitarianism)の観点から、被災者向け生活再建貸付の実施をどのように正当化できるかを考察し、立命館大学で行われた国際カンファレンス"Catastrophe and justice"で報告した。 4.社会科学領域における歴史記述のあり方についての考察 社会学・文化人類学を専門とする、所属大学院の教員・院生や立命館大学所属の研究員を著者とした、報告書『歴史から現在への学際的アプローチ』を編集し、歴史分析のあり方や可能性についても考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文等の研究成果自体は当初予定よりも少ないが、24年度より開始予定だった理論的研究は既に着手し、試論的な研究発表も済ませている。24年度の学会報告・論文投稿の準備も進めており、研究期間満了時には当初予定を十分に達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初23年度中に共著で出版予定だった『体制の歴史』(仮題)は、平成24年中に出版予定である。研究代表者は1950年代~1970年代にかけての低所得者向け福祉的貸付の全体像を記述・分析する予定である。生活協同組合の生活再建貸付をめぐる研究については社会政策学会第124回大会で、福祉的貸付の理論的研究については福祉社会学会第10回大会で報告することが決定している。これらについては報告後学術論文として投稿予定である。本補助金による成果を踏まえて、博士学位申請論文『福祉的貸付の系譜と理論』を平成24年度中に提出する予定である。
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