研究課題/領域番号 |
11J09680
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
黒田 純平 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | ショウジョウバエ / Wntシグナル / 左右非対称性 / 消化管 |
研究概要 |
私の所属する研究室では、無脊椎動物の左右非対称性形成機構を理解するために、遺伝的手法が駆使できるモデル生物であるショウジョウバエの消化管の左右非対称性に注目し、研究を行ってる。私はこの研究において、Wntシグナルがショウジョウバエ胚消化管前方部の左右非対称性形成に重要な役割を果たしていることを明らかとした。しかしながら、生物の左右非対称性形成におけるWntシグナルの機能については理解がすすんでいない。ショウジョウバエ胚消化管前方部の左右非対称性形成における、Wntシグナルの機能を明らかとするために、交付申請書の研究実施計画にしたがって以下の内容について調べた。消化管前方部の左右非対称性形成にWntシグナルが必要であることから、消化管前方部におけるWntシグナルの活性化が左右非対称である可能性が考えられた。これを調べるために、Wntシグナルの標的遺伝子であるfrizzled3(fz3)のエンハンサー領域にlacZを組み込んだトランスジーンを、野生型胚に持たせ、lacZ遺伝子の発現について調べた。この結果、消化管前方部におけるlacZの発現に左右非対称性は観察されなかった。このことから、Wntシグナル自体に左右非対称性はなく、Wntシグナルはその他の左右非対称性形成因子の活性を調節している可能性が考えられた。また、共同研究者によって、消化管前方部の左右非対称性形成には、Wntシグナルの他にJNKシグナルや、アクチン細胞骨格と相互作用するMyosinIIが重要な役割を果たすことが明らかとされている。そこで、JMKシグナル構成因子であるpuckerdのエンハンサー領域にGFPを組み込んだレポータージーンをWnt4突然変異系統に持たせ、GFPの発現について調べたが、Wnt4突然変異系統胚におけるGFPの発現レベルは野生型胚と比較して変化はなかった。これらの結果から、消化管前方部の左右非対称性形成において、WntシグナルとJNKシグナルは、それぞれ独立に機能していることが示唆された。次に、WntシグナルとMyosinIIとの関係を調べるために、Wnt4突然変異体胚において、MyosinIIの活性化を調節するRho kinaseの活性化型遺伝子を強制発現させたときの消化管前方部の左右非対称性を観察した。その結果、Rhokinaseの活性化型を強剃発現したWnt4突然変異体胚では、消化管前方部の左右非対称性の異常が亢進していた。このことから、消化管前方部の左右非対称性形成において、Wnt4によるMyosinIIとアクチン細胞骨格の調節が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究によって、古典的Wntシグナルの活性化が、ショウジョウバエ胚消化管の左右非対称性形成において重要な機能をはたしていることが明らかとなった。また、古典的Wntシグナルの活性化は、中腸環状筋細胞の左右非対称な再編成に必要であることが明らかとなった。このようなWntシグナルの果たす機能は、本研究によって初めて報告された例であり、以上のことにより、本研究が順調に進展しているものと言うことができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
古典的Wntシグナルでは、TCF複合体を介した下流標的遺伝子の発現誘導が細胞応答に重要な意味をもつ。そこで、TCF複合体によって発現が誘導される遺伝子を、マイクロアレイを用いて解析する。具体的には、TCFを消化管で強制発現させ、野生型胚と比較して、マイクロアレイで2倍以上の増加がみられるmRNAを同定する。
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