研究概要 |
亜鉛,銅,カドミウム等の重金属による生態リスクを適切に管理する一つの方法として,水質環境基準などの管理目標値を設定することが挙げられる。しかしながら,既往研究・評価の多くは単一の生物種を用いた室内毒性試験結果をもとにしており,この問題点を補完する上で,野外で観察される影響を把握することが有用である。本年度は,英国,米国,日本で実施された約400地点での底生動物調査結果を用いて,各重金属(亜鉛,銅,カドミウム,マンガン)が底生動物の種数に顕著な影響を及ぼさない濃度(安全濃度)を推定した。その結果,推定された安全濃度の範囲は,各国の管理目標値や欧州のリスク評価で提案されている予測無影響濃度と重複していた。したがって,室内毒性試験をベースに導出されたそれらの値が概ね適切な保護レベルを提供していることが示唆された。本成果は,SETAC Europe 21st Annual Meetingで発表し,投稿論文がEnvironmental Pollution誌に受理された。 また,生物個体群の存続を指標とした場合に95%の種が保護できる銅濃度を,既往の個体群モデル及び毒性試験結果を用いて推定した。その結果推定された濃度は,上述の野外調査結果をもとに推定した銅の安全濃度と非常に近い値を示しており,当該方法論の有効性を示しているといえる。このような研究は過去にも亜鉛を対象とした研究1件しかない。本成果は,SETAC North America 32nd Annual Meetingで発表し,投稿論文を準備中である。 加えて,重金属の複合影響及びその予測モデルに関する知見の収集も行った。SETAC North America 32nd Annual Meetingでは,重金属の複合影響に関するワークショップに参加することができ,来年度以降,海外の研究者と議論する機会も得た。また,来年度実施する予定であるメソコスム実験の計画を担当研究者とコンタクトをとって,現在調整中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り,亜鉛,銅などの微量金属が河川底生動物の種数に顕著な影響を及ぼさない濃度の推定は完了し,投稿論文は受理された。また,金属の複合影響を評価する既存の方法についても多くの知見を収集することができた。加えて,来年度実施予定のメソコスム実験の計画についても海外研究者と調整中であり,順調に研究は進展している。
|