研究概要 |
既往知見及び金属の複合影響評価手法に関する会議での議論(ブリュッセル,2012年5月)を鑑みると,少なくともミジンコなどを用いた室内毒性試験結果を解釈する上で,金属の存在形態及び生物リガンド(例えば,魚のエラ)への金属の吸着を考慮することの有用性は,専門者内で広く受けいれられているといえる。他方,河川底生動物に対する金属の複合影響を予測する上で,生物リガンドへの金属の吸着の考え方を応用した(フミン酸に吸着する推定金属量を曝露指標とした)研究例はStockdale et al.2010があるが,他の曝露指標との比較がされておらず,このアプローチの有用性が十分に検証されていると言い難い。そこで,米国のコロラド州立大学滞在中に(2012年8月~2013年2月,指導教官:Prof.William Clements),金属の複合影響を対象とした既往のマイクロコスム実験結果(Clements 2004)を用いて,当該アプローチの有効性を影響予測の観点から評価した。その結果,解析対象とした底生動物群集指標すべてについて,上記の曝露指標が金属のフリーイオン濃度等の他の曝露指標と比較して優れていることが示唆された。本成果はAquatic Toxicology誌に受理され,2013年5月の国際学会で口頭発表する予定である。 また,米国滞在中には,河川底生動物群集を用いたマイクロコスム実験を用いて,カルシウム濃度の増加が銅の生態影響に及ぼす影響を評価した。本実験は金属の複合影響を考える上で基礎的かつ重要な知見を提供するものであり,今後詳細な解析に取り組む予定である。 その他には,個体群モデルを用いて95%の種個体群が保護できる銅濃度を推定した論文がEnvironmental Toxicology & Chemistry誌,生態リスク評価における野外調査及び個体群レベルの影響評価の重要性を強調した2つの論説がIntegrated Envionmental Assessment and Management誌に掲載・受理された。
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今後の研究の推進方策 |
底生動物の群集応答の性質及びマイクロコスム実験の労力を鑑みると,重金属毒性の相互作用(拮抗,相加,相乗作業)を厳密に検証することは難しいと考えられるため,相加影響の仮定を用いて研究を進める予定である。フミン酸に吸着する推定金属量を曝露指標とすることの有用性をマイクロコスム実験または野外調査データを用いてさらに検証した上で,当該指標を野外調査データの解析に利用することを検討する。
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