研究概要 |
本研究の目的は,気泡崩壊に伴い生じる超高温高圧を利用したがん治療技術に関する数値解析手法を確立すること,および治療効果の最適化条件を示すことである.この目的のために,本研究では巨視的解析(臓器スケール,治療時間)と微視的解析(気泡界面の微細構造スケール,衝撃波の伝播時間)の二つの数値解析を行う, 本年度では,気泡崩壊(液体ジェット,衝撃波,高温度場)による薬剤輸送や壁面損傷,薬剤活性を定量的に評価するための微視的解析手法を発展させた.具体的には,治療効果を予測する上で重要となる三つの物理現象を扱い得るように既存手法を改良した.一つ目は,気液界面を通過する熱・物質輸送である.気泡崩壊現象に対して,熱拡散ならびに相変化が重要となることが知られている,そのため,Ghost Fluid法を改良して,気液界面の微細構造まで捕らえた上でその界面において生じる非平衡相変化を扱い得る手法を提案・構築した.この手法を球形気泡の崩壊問題に適用し,既存の実験結果と比較することにより手法の妥当性を示した.また,軸対称二次元解析として,本手法を衝撃波作用による気泡崩壊問題に適用し,ジェット衝突時ならびに気泡の再膨張時に大量の熱量が気泡から周囲流体に輸送されること,気泡崩壊時に気泡形状が複雑となり界面表面積が増加することにより,相変化量が増大すること等の知見を得た,二つ目は,気泡崩壊と周囲壁面との相互作用を解析するために重要となる流体の粘性ならびに壁面の張力モデルを導入した.衝撃波により誘起される気泡崩壊に対して,壁面の音響インピーダンスに加えて,壁面の変形特性が重要となることが示された.三つ目は,気泡崩壊時に発生するジェットや衝撃波に駆動される薬剤の輸送を扱った.薬剤の輸送に対して,気泡崩壊時に形成される渦流れが重要であるという知見を得た.また,気泡流中における衝撃波の伝播に関して論文にまとめた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,解析対象のスケールが異なる二つの数値解析手法を構築し,目標を達成する.本年度では,気泡崩壊時の気液界面の微細構造まで解像した上で,その界面において生じる熱・物質輸送,気液界面の高速変形による液体ジェット,気泡崩壊時に発生する衝撃波,それらの作用により壁面に加わるせん断応力,張力モデルを導入したゼラチン壁の複雑な変形,薬剤輸送現象を同時に扱い得る数値解析手法を構築し,手法の妥当性を検証するとともに種々の条件の解析を行った.これらにより,微視的な観点の解析手法においては,医療効果を評価する上で考慮しなければならない物理現象をおおむね導入することができた.
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今後の研究の推進方策 |
今年度構築した気泡崩壊時に発生する衝撃波や高温度場を定量的に評価し得る直接数値解析手法を発展させ,より現実の医療状況を想定した解析系に適用する.加えて,本研究のもう一つの解析アプローチである臓器サイズや治療時間を想定した巨視的な解析手法を構築する.これらの手法を用いて,超音波強度や気泡数密度などをパラメータとして,薬剤の導入量や生体壁面に加わる圧力値,気泡崩壊に伴う高温度場(領域・最高温度)などを定量的に評価し,治療効率最適化のための指針を示す.巨視的な解析手法は,これまでの研究において構築している二つの解析手法を組み合わせることにより構築する.具体的には,三次元境界要素法による三次元形状の移動・変形する壁面と流体との連成解析手法と,気泡モデルを三次元境界要素法と連成する解析手法とを組み合わせる.
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