研究概要 |
本研究では、軽度認知障害(mild cognitive impaimment : MCI)高齢者を対象とした横断的調査によりMagnetic Resonance Imaglng(MRI)検査による脳の委縮状態と運動機能との関係を明らかにすることを目的とした。MCI高齢者92名を対象者として、MRIによる脳萎縮評価(内側側頭領域)と運動機能(歩行速度、バランス、下肢筋力、6分間歩行距離)との関連を調べた。健忘型MCI(34名)と非健忘型MCI(58名)に分類して解析した結果、いずれの群においても内側側頭領域の萎縮は6分間歩行距離と有意に関連することが示された(健忘型MCI群: r=-0.58,p<0.01;非健忘型MCI群:r=-0.37,p<0.01)。この関連は、健忘型MC群においてのみ、年齢で調整した後でも有意であった(β=-0.46,p<0.05)。このことは、運動機能のなかでも有酸素能力が脳萎縮と関連している可能性が示唆され、身体活動量の増大や有酸素運動による介入が脳の実質的な変化を保護的に寄与することが期待される結果となった。また、65歳以上の地域在住高齢者を対象として、認知課題遂行中の脳血流ヘモグロビン濃度を近赤外線分光法(near infrared spectroscopy : NIRS)により測定し、脳活性状態と日常活動状況との関連を調べた。その結果、毎日外出している群(Daily)7名とそれ以外の群(Non-daily)13名で言語流暢性課題の遂行中の左右前頭前皮質におけるoxy-Hb変化を比較するとNon-daily群よりもDaily群で有意にoxy-Hbが増大していた(left:F=4.76,p=0.04;right:F=6.32,p=0.02)。つまり、認知課題遂行中における前頭前皮質の脳活性化の増大には、積極的で高頻度の外出が影響している可能性が示唆された。さらに、来年度計画の実施に向けて、客観的な大規模データベースに基づくMCI高齢者を選定するための地域在住高齢者を対象とした招聘型による調査を実施した。調査に参加し、データの使用に関しての同意が得られたのは5,104名であった。そのうち、75歳以上の高齢者1,555名のデータを分析した結果、Petersenの定義に基づくMCI高齢者の割合は248名(15.9%)であった。なお、85歳以上の超高齢者では31名(17.2%)がMCIに該当した。
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