研究課題
生物において、メッセンジャーRNA上に存在する遺伝情報から生理活性を有するタンパク質を合成する過程(翻訳過程)が正しく行われることは生命活動を維持するために必須である。タンパク質の合成はリボソーマルRNA(rRNA)と呼ばれるRNAとリボソーマルタンパク質からなるリボソームと呼ばれる細胞内顆粒構造体によって担われているが、その生合成、翻訳機能の効率や正確性は様々な因子による調整機構により担保されていると考えられている。本研究ではそのような調整機構のなかでもrRNAの転写後修飾に着目した。原核生物のモデル生物である大腸菌の23SrRNAのペプチド反応を触媒する活性中心近傍には化学構造が未同定なシチジンの誘導体が存在している。この修飾シチジンは大腸菌の生育段階においてその修飾率が変化することから、生育環境依存的なリボソーム機能の調節を担っていることが示唆されている。しかし、この修飾塩基は構造をはじめ、その生合成遺伝子および機能はほとんど不明であった。そこで本研究ではその化学構造を明らかにすると同時に、生合成機構およびその機能を明らかにすることで新たなリボソーム機能の調節機構の提唱をめざし研究を行っている。当該年度の研究により、まず新規rRNA修飾の化学構造が、シチジンの5位にヒドロキシル基が付加された5-ヒドロキシシチジン(ho5C)であることを突き止めた。この結果は当初の目的のうちの一つである化学構造の同定を達成したことを意味している。次にho5Cの生合成に関わる遺伝子を探索したところ、r1hAという遺伝子を同定した。またこの遺伝子がコードするR1hAはリボソームの生合成中間体の画分に存在することを見出した。このことはR1hAが23SrRNAに直接ヒドロキシル基を導入する酵素であることを示唆している。以上の結果から当該年度の研究によって新規rRNA修飾の構造、および生合成経路の一端を明らかとなったといえる。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の研究により、研究の最初の関門であったrRNA修飾の化学構造の同定およびその生合成遺伝子の同定に成功した。さらにこれら二つの成果は今後の組み換えタンパク質を用いた生合成機構の解析やその遺伝子欠損株を用いた機能解析などを可能にする成果である。そのため目的であった生合成機構と機能を検討する手立てがそろい、今後さらに研究を展開することが可能となったので順調に進展しているといえる。
今後は新たに同定したRh1Aの組み換えタンパク質を作成、試験管内再構成反応を試みることでRh1Aがヒドロキシル化を担う酵素であることを証明するとともに、その生化学的な酵素反応機構を明らかにしていくことを目指す。またさまざまな条件下においてRh1Aの欠損株の生育やリボソームの機能、生合成を解析することにより、この修飾が生育環境依存的なリボソームの機能調節を行っているという仮説の検証を行っていきたい。
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Nucleic Acids Research
巻: (掲載確定)(印刷中)
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