研究課題/領域番号 |
11J10022
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 優紀 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 細胞膜プロトンポンプ / 気孔孔辺細胞 / タイプ2Cプロテインホスファターゼ / フロリゲンFT / シロイヌナズナ |
研究概要 |
細胞膜プロトンポンプ(H^+-ATPase)を脱リン酸化するプロテインホスファターゼを同定すべく、シロイヌナズナの持つ76のPP2C遺伝子の中から候補を絞り込んで解析を行った。候補とした7遺伝子について組換えタンパク質を作製してH^+-ATPaseに対する脱リン酸化活性を調べ、5つのPP2Cがin vitroでH^+-ATPaseを脱リン酸化することを明らかとした。変異体が入手可能だった2つの候補、At4g31750及びAtsg10740について、それぞれ得られたノックアウト株とノックダウン株のロゼット葉におけるH^+-ATPaseリン酸化レベル、in vitro脱リン酸化反応及び気孔の表現型を調べた結果、野生株との間に顕著な差は見られなかった。また、これらのPP2Cが重複して働いている可能性が考えられたため、二重変異体を作出して同様に解析を行ったが、顕著な表現型は観察されなかった。また、孔辺細胞に強く発現することが知られているGC1プロモーターを用いて候補PP2Cを過剰発現させた形質転換体を作出し、光に応答した気孔開口及び暗所における気孔閉鎖について観察を行った。しかしながら、どの形質転換体もコントロールと同様の気孔応答を示した。 また、フロリゲンFT(FLOWERING LOCUS T)によるH^+-ATPase活性化機構について、これまでに、このFTによるH^+-ATPase活性化がFTの発現部位であり、H^+-ATPaseが一次輸送体としてショ糖の取り込みを駆動することが知られている篩部伴細胞においても起きている可能性を見いだしてきた。そこで、野生株及びFT機能欠損変異体におけるデンプンの日周変動をヨウ素デンプン反応により調べた。その結果、野生株においては暗期終了時にデンプンが枯渇しているのに対し、変異体ではデンプンが高蓄積していることが明らかとなった。これは変異体において光合成産物の転流が低下している可能性を示唆するものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、H^+-ATPaseを脱リン酸化するホスファターゼについて、その分子実体の同定には至らなかったものの、絞り込んだ候補PP2Cの変異体解析、過剰発現体の作出を行い、ホスファターゼの同定に向けて解析を進めてきた。 FTによるH^+-ATPaseの活性化についても、節部伴細胞においてFTがH^+-ATPaseの活性化を介して光合成産物の転流に関与している可能性を見出しており、生理的意義の面からも非常に興味深い結果を得られている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、in vitroにおいてH^+-ATPaseを脱リン酸化することが明らかになったPP2Cについて、変異体及び過剰発現体の解析を更に進める。また、これまでに作出した過剰発現体では、過剰発現したPP2Cが細胞内でネガティブレギュレーターによる調節を受けることにより表現型が表出しなかった可能性が考えられることから、変異を導入して細胞内でドミナントに働く変異型PP2Cを過剰発現させた形質転換体を作出して解析を行う予定である。この他にも、H^+-ATPase複合体解析を行うことにより、多方面から活性調節因子の同定を目指す。また、同定した活性調節因子の制御機構についても、気孔孔辺細胞を材料に用いて解析を進めて行く予定である。FTによるH^+-ATPaseの活性化については、FTと転流の関係について更に解析を行うと共に、FTによる成長促進効果についても解析を進めていこうと考えている。
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