研究概要 |
細胞膜プロトンポンプ(H+-ATPase)を脱リン酸化するプロテインホスファターゼを同定すべく、シロイヌナズナの持つ76のPP2C遺伝子の中から候補を絞り込んで解析を行った。H+-ATPaseをin vitroで脱リン酸化した4つのPP2Cについて植物体内でもH+-ATPaseを脱リン酸化しているのか調べた。変異体や過剰発現株について、H+-ATPaseリン酸化レベルや気孔開度など、詳細な解析を行ったが顕著な表現型は観察されなかった。しかしながら、同じクレードに属するPP2Cが重複してH+-ATPaseの脱リン酸化に関与する可能性が示唆されており、今後更なる解析が必要である。 この研究過程において、植物ホルモン・アブシジン酸(ABA)によって黄化芽生えの胚軸伸長が抑制されていること、この抑制はH+-ATPaseC末端Thr残基の脱リン酸化を介して行われていることを新たに見出した。これらの現象は、ABA非感受性変異体abi1-1では観察されなかったことから、ABAシグナル伝達初期応答因子ABI1がABAによる胚軸伸長阻害とABA誘導性のH+-ATPase脱リン酸化を調節していることが示唆された。これらの結果をまとめ、原著論文として発表した(Hayashi etal.,Plant CellIPhysiol.,2014)。これまで不明であった胚軸のABAによる伸長抑制の分子メカニズムを解明した重要な成果であると考えている。 また、フロリゲンFT (FLOWERIWG LOCUS T)によるH+-ATPase活性化機構について、今年度新たにH+-ATPaseが節部伴細胞に局在することを明確にするため、篩部伴細胞特異的に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させた形質転換植物(pSUC2::GFP)を作成し、GFP抗体を用いたロゼット葉横断切片の免疫染色を行った。その結果、H+-ATPase C末端のリン酸化Thr特異的抗体を用いた免疫染色の染色パターンとよく一致した染色パターンを示したことから、H+-ATPaseが局在する維管束の細胞は篩部伴細胞であることが強く示唆された。
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