研究課題
視覚系は網膜からの入力信号に基づいて外界の状態を推定する。初期の視覚情報処理は網膜座標位置に基づいて行われる。しかし、眼球運動などによる観察者自身の運動によって網膜像と外界の関係は乖離するので、網膜位置に基づいた信号処理だけでは外界の正しい推定は難しい。本研究の目的は視覚系には網膜座標系に基づく処理から環境座標系に基づく非網膜的な処理へと変換されるメカニズムを明らかにする事である。眼球運動の情報を利用した非網膜的な情報処理メカニズムの解明は視覚系がどのように網膜からの入力から普段の見えに変換しているのかを知る上で重要である。今年度実施した主な研究活動は以下の通りである。(1)運動によって位置がずれてみえる現象について、この現象が網膜座標系での運動や環境座標系での運動で決定されるのではなく、エンベロープとキャリアの相対速度そのものが主な要因であるという論文をJournal of Vision誌にて発表した。(2)視覚系は網膜からの入力信号を元に外界で何がどこに移動したのかを決定しなければならない(運動対応)。この決定は一意的に解が定まらないいわゆる不良設定問題であるため、視覚系は様々な制約条件を設定することでその曖昧性を解消している。その制約条件のうち最も重要なものの一つが網膜上での移動距離が短い方を選択するというものである(近接性)。一方、急速眼球運動時には網膜位置と知覚位置が一致しないことが知られている。報告者は近接性が急速眼球運動によって歪んだ空間の近接性に基づいて行われる事を発見し、今年度はこの効果が眼球運動そのものアーティファクトではないこと、眼球運動にともなう他の画像変化が副次的にこの効果を引き起こしたのではないことの2つを実験的に確認した。現在論文を作成中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度が最終年度であるが、当初の計画通り、順調に実験結果を得る事が出来ている。また、それに伴い学会発表や国際誌への論文発表なども行っており、順調に進展していると評価できる。
本年度が最終年度であるが、今年度得られた結果を含め、本研究計画で得られた結果は論文にまとめ国際誌に投稿してゆく。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Journal of Vision
巻: 13 ページ: 1-12
10.1167/13.12.21