研究概要 |
本年度は、Scを添加元素に用いたペロブスカイト型プロトン伝導体を作製し、母相のペロブスカイト酸化物のカチオンの違いがSc周囲の局所環境に及ぼす影響についてSc-45NMRを用いて解析した。作製した試料は、10 mol% ScドープBaZrO_3、BaCeO_3、CaZrO_3、SrCeO_3、および5 mol% ScドープSrZrO_3であった。それぞれの試料のSc-45 NMRスペクトルでは、6配位のSc、酸素空孔を含む5配位のSc、及びプロトン性欠陥を含む6配位のScと帰属されたピークが観測された。5配位のScによるピークの線形を解析した結果、5配位のScの配位多面体の等方性が母相のペロブスカイト酸化物AXO_3(A=BA,Ca,Sr, X=Ce,Zr)のAサイトとXサイトのカチオンの種類によって変化することが明らかになった。立方晶に近い構造をとるBaZrO_3やBaCeO_3では5配位のScの配位多面体の異方性が大きく、斜方晶でX0_6八面体間の歪みが大きいCaZrO_3やSrCeO_3では5配位のScがより等方的になっていると考えられた。MRスペクトルで観測されたそれぞれのScサイトによるピークの面積強度からSc周囲の酸素空孔とプロトン性欠陥の量を算出した結果、5配位のScの異方性が大きいBaZrO_3ではSc周囲の酸素空孔がH_2Oと反応してプロトン性欠陥を形成しやすく、一方、より等方的な5配位を有するCaZrO_3ではSc周囲の酸素空孔が安定に存在していることが示唆された。本年度の研究により5配位のSc周囲の等方性が欠陥の安定性に影響を与える可能性が示され、酸素空孔を含む5配位のカチオン周囲の等方性に着目した新たな材料開発へのアプローチが可能なのではないかということが示唆された。
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