研究課題/領域番号 |
11J10092
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西川 道弘 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | 銅錯体 / レドックス / 光異性化 / 光電子移動 / 分子スイッチ / 分子機械 |
研究概要 |
メチルピリジルピリミジンとかさ高いジイミンを配位子とする新規銅一価錯体を合成し1H NMR,単結晶X線構造解析,元素分析により同定を行った。溶液中における電気化学測定とシミュレーション、分光測定、添加実験により、203K,ジクロロメタン中、デカメチルフェロセニウム共存下では、光電子移動反応を介した反転異性化が起こると予測できた。上記の条件で光照射前のサイクリックボルタモグラムでは、二つの反転異性体由来の酸化還元波が観測された。可視光照射を行うと酸化還元波においてi-体の減少とo-体の増大が見られ、照射後一旦加温すると、光照射前の酸化還元波が観測された。ボルタモグラムの変化は光照射と加温により再現性良く繰り返すことができ、光反転の高い可逆性を示している。二つの異性体は電気化学ポテンシャルが異なる。したがって、光と熱の外部刺激を、反転を介して、電気信号へと変換する分子システムといえる。この戦略の適用範囲は広く、例えば系を化学試薬により部分酸化しても発現できる。この場合は銅二価錯体そのものが電子アクセプターとしてはたらくことで、前述の系より光反転が速く起こせることがわかった。また光化学の点からも、よく知られているフォトクロミック分子は光異性化に伴う色変化が必須だが、i-体とo-体との吸収スペクトルに差がなく、新しい光応答性の概念を提案できた。以上から、モーターたんぱく質のように、あるエネルギー(光)を、分子運動を介して、別のエネルギー(電気信号)へと変換する機能を、シンプルな人工分子の分子運動で実現することに成功した。レドックスポテンシャルは、電気、磁気信号など人が扱いやすい出力方法に変換でき、単光子検出や分子シグナル伝達ができる回路への展開が期待できる。この結果は現在権威ある海外の査読付き化学系一般学術紙に投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者が所属する研究室では、これまで電位変化が連動する銅錯体上のピリミジン環反転を化学試薬の添加で駆動させていた。今まで用いた分子や実験方法では不可能であったが、文献や実験結果から詳細かつ論理的に分子の性質を見極め、光電子移動を利用するアイデアと適切な実験条件を検討し、可視光で駆動させ同時に電気化学特性変化を起こすことに成功した。フォトクロミック分子とはまったく異なる色変化を伴わず、新しい分子への光応答性の付与方法を提案したともいえる。光を電気信号に変える分子素子への展開が期待できる重要な結果である。この結果は現在権威ある海外の査読付き化学系一般学術紙に投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
国内外の学会にて発表を行い、海外の査読付き学術誌に掲載することで、光電子移動で駆動するピリミジン環反転による銅二価一価レドックスポテンシャルスイッチの結果、考察を発表する。光、磁気、分子による信号を伝達する分子システムの開発に重要な概念といえる。分子の置換基効果や溶媒依存性の検討から、銅錯体上のピリミジン環反転の化学を追究する。例えば光反転機構を詳細に解明し上記と同様に発表する。ITO電極表面に分子を固定化し反転軸と電子移動方向を垂直とした系を、錯体溶液を電極基板に浸漬することで構築する。光のもつ情報はエネルギーだけではなく偏光など電場振動の方向が偏った光子を用いれば、それに伴う電子移動に反転方向の情報を含む電子応答が起こる。その検出のために溶媒や電解質分子の絶対配置で空間的なキラリティーを作っておくと反転方向を認識した電気信号が出力される。以上の方法により研究を推進させる。
|