研究課題/領域番号 |
11J10110
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
虫賀 幹華 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員DC1
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キーワード | ヒンドゥー教 / 祖先祭祀 / 葬送儀礼 / シュラーッダ(祖霊祭) |
研究概要 |
本研究は、ヒンドゥー教徒による死者に対する儀礼行為について、現代における実施形態とそれに至るまでの過去の儀礼文献における規定を描写し、そこからヒンドゥー教の死生観・祖先観を探るというものである。本研究の特長の一つとして挙げられるのは、現地でのフィールドワークとサンスクリット語の儀礼文献の解読を組み合わせるという方法そのものであるが、この二つのアプローチから本年度に実施した研究の成果は以下である。 (1)北インドのアッラーハーバードにて調査をし、儀礼過程の詳細を多々映像に収め、死者・祖先のイメージと祖先祭祀の実施状況に関するインタビューを行い、「祀られる死者の範囲と祀られ方の差異」について有益な見解を得た。具体的には、祀られるべき死者の範囲は父方及び母方の12人の死者であるという認識はある程度共有されているものの、それらは一様に祀られるわけではなく、儀礼執行日が特定の死者の命日と関連付けられる場合、特定の死者のみが特別な儀礼により祀られる場合があることが分かった。 (2)上記の知見の文献的起源を辿るために、祖先祭祀としては現在最も一般的な「シュラーッダ」という儀礼形態を定めたとされるグリフヤスートラ文献群(紀元前6世紀以降数世紀)における記述を分析してそれ以前の文献群における祖先祭祀規定との相違点を考察し、グリフヤスートラの中で特定の死者一人に対する供養儀礼が徐々に詳しくなっていったことを発見した。 (3)(1)と(2)はそれぞれ、現代と紀元前1千年紀後半に関する事柄であり、その間を埋めていく必要がある。その試みの一つとして、『ガルダ・プラーナ』(8世紀の作とされている)第2巻の第4-5章を精読した。同箇所における死者に対する供養儀礼は、グリフヤスートラのものよりもさらに現代の形に近づいており、死後10日間に行われる死者の身体を形成するための儀礼の発達が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は「現代のヒンドゥー教における死をめぐる信仰と実践の描写と分析」であるが、フィールド調査により、祖先祭祀の実施状況の把握と一つの特徴(祀られる死者の範囲と祀られ方の差異)の発見ができた。また、インド研究において従来別々に発展してきており協同が求められる人類学的研究と文献学的研究の架橋を行うことも本研究の目的の一つであるが、文献学的方法から現状の分析を試みたという点で進展があったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は第一に、サンスクリット語の儀礼文献の分析を進める予定である。具体的には、紀元前1千年紀後半のグリフヤスートラ文献群において形成された「特定の死者一人に対する供養儀礼」すなわち「エーコーッディシュタ・シュラーッダ」の、それ以後の儀礼文献における変遷を解明したいと考えている。ただ、本研究の目的の一つに、先行研究ではやられていない、ヒンドゥー教における祖先祭祀規定を親族構造やそれに関する種々の規定との関わりの中での分析を行うことがあるが、そのためには儀礼の内容だけでなく同時期の親族関係の規定や社会状況についても明らかにしていく必要があり、こちらも併せて実施する予定である。一方現地調査も並行して実施するが、まず2013年1-2月に、調査地では12年に一度開催される大規模な祭り「クンブ・メーラー」を観察しに行く予定である。この祭りは、調査地の現状を知るという意味でも重要であるが、出家遊行者たちが多く集まることでも有名である。出家遊行者は祖先祭祀を継続して行う在家者とは真逆であり、彼らとの交流を通してヒンドゥー教の幅の広さを実感し、祖先祭祀の実践のヒンドゥー教における位置づけを考察したいと考えている。
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