研究課題/領域番号 |
11J10110
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
虫賀 幹華 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ヒンドゥー教 / シュラーッダ(祖霊祭) / 祖先祭祀 / 親族 |
研究概要 |
本研究は、インドの死者・祖先儀礼とその関連事項について、古代から現代までを見渡しつつ《文献記述と実態の両面から迫ることを目標としている。以下では、本年度に行った文献研究とフィールドワークによって得られた成果を順に記述する。 〈文献研究〉紀元前1千年紀後半から紀元後1千年紀前半頃に編纂されたとされるサンスクリット語文献のうち、グリフヤスートラ、グリフヤスートラの補遺文献、ダルマスートラ、スムリティと呼ばれる文献の祖先祭祀についての記述を抽出し、検証した。特に女性死者と母方親族の祀られ方に注目し、後代になるにつれそれらに対する祭祀規定への言及が増加する傾向にあることを発見した。また同文献内における親族規定との関連を考察し、母方親族が必須の祭祀対象となることについては、「プトリカー(自身の息子に、彼女の父親のための祭祀等を行わせることを父親と約束して結婚する、兄弟のいない娘)の息子」の規定と関係するのではないかという見解を得た。 <フィールドワーク>2013年1月から3月にかけ、調査地である北インドのアッラーハーバードにて12年に一度の大祭「マハー・クンブ・メーラー」が開催され、期間中1ヶ月ほど調査を実施した。同調査の本研究における意義は、祖先祭祀と密接に関係する「家族」について、多方面から情報を得られたことである。インドにおける「家族」範囲の広がり方の特質と、それにおける血縁関係重視の是非について検討することが{本研究にとって有意義なのではないかというヒントを得た。 本研究の第一の目的はインドの祖先祭祀の特徴を明らかにすることであるが、インドの宗教伝統をどう捉えるかについて祖先祭祀および家族という観点から考察することが大きな目標である。昨年および本年度の文献研究とフィールドワークにより、祖先祭祀に関する原則を一方で押さえつつ、原則が適応できない場合の「例外規則」に注目することがインドの宗教伝統を考える上で重要なのではないかという考え(未だ漠然とした直感にすぎないが)に到ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
インドの祖先祭祀の特徴を明らかにするために、文献および現代の実態の両側面から着実に研究は進んでいるといえる。また、両者にアプローチするための言語の習得も順調に行っている。しかしながら、現時点で見ることができている文献が5-6世紀頃のものまでであるため、現代との接合を考えるのに不都合が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は第一に、本年度に考察した『ヴィシュヌ・スムリティ』『マヌ・スムリティ』『ヤージュニャヴァルキャ・スムリティ』といったスムリティ以降の時代に編纂されたとされる、いくつかのプラーナやダルマニバンダなど、後代の文献における祖先祭祀の規則を分析し、古代から現代に至るまでの文献における変遷をまとめる予定である。こうした文献には、古いものよりもさらに充実した「例外規則」が書かれているとみられる。また、祖先祭祀に適した時期である「ピトリ・パクシャ」(2013年9月20日~10月5日)には現地調査を行う予定である。
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