本研究では、身体知形成過程での視覚の役割を明らかにすることを目指し、けん玉熟練者のふりけんにおける身体運動と玉の運動を記録・分析した。視覚の役割を検討する上で、視野遮蔽眼鏡を用いてけん玉熟練者の視環境の制約を行った。けん玉熟練者3名を対象とし、視野遮蔽眼鏡により視環境が制約された状況下でのふりけんの練習を計8回行った。8回の練習の前後には、どの程度見える時間があれば、ふりけんを成功させることができるのか調べる実験(pre-testとpost_test)をし、一人のけん玉熟練者につき計10回の実験を実施した。分析では、視環境の制約の有無で1)玉の運動・玉を操作するけんの運動・頭部運動がどのように変化するのか、2)回転する玉の穴にけんを入れる際に利用される視覚情報に対して、頭部運動がどのように影響を与えるのかを検討した。 データ解析は学習過程(練習時データ)の分析にまで到達しておらず、現在はpre-testと post-testのデータを中心に分析をしている。Pre-testとpost_testにおける熟練者の傾向としては、pre-testでもpost_testでも視環境の制約の有無によって玉の運動、けんの運動、頭部運動が変化した。pre-testでは視環境制約の有無によってふりけん時に利用された視覚情報が異なるとも同じとも言えなかった。一方post_testでは、視環境の制約に関わらず成功試行では利用された視覚情報は異なっておらず、成功試行と失敗試行とで利用された視覚情報が異なっていた。さらに、玉にけんを入れるときの制御に対しては、頭部運動によりその見えが相対的に緩やかになることがわかった。以上より、ふりけんが成功する場合には視環境の制約の有無にかかわらず同一の視覚情報が利用されており、各条件下で視覚情報が得られるように身体運動が変化するのではないか、つまり運動の柔軟性・多様性の背後に視覚情報の一貫性があるのではないかと考えられた。今後は現在の考察を仮説として残りのデータの解析を進めつつ検証をしていきたい。
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