研究概要 |
平成24年度は、前年度の実験実施計画に基づき、「色ワーキングメモリ保持に空間的注意が必要か否か?」をテーマとして一連の脳波測定実験・行動実験を行った。背景として、視覚性情報を扱うワーキングメモリでは、色や形といった特徴情報を保持する場合と空間情報を保持する場合でそのシステムが異なるという理論がある(Logie, 1995)。さらに近年、Treismanらが物体認知における特徴統合理論(Feature Integration Theory, Treisman & gelade 1980)を基に、視覚性ワーキングメモリのモデルを提唱している。この理論に基づけば、物体を保持するためには空間的注意が必要であるが、色などの単一の視覚特徴の保持には空間的注意が不必要と予測され、実際に行動実験によってその証拠は集まりつつある。しかしながらこの理論をさらに検討していくには、神経データを含めた証拠が必要となる。そこでまず我々は「色ワーキングメモリ保持に空間的注意が必要か否か」をテーマとし、脳波(事象関連電位)測定実験を行った。この実験では、プローブテクニックと呼ばれる方法を用いることで、色ワーキングメモリ保持中に空間的注意が働いているか否かをP1/N1と呼ばれる事象関連電位成分上の変化を元に検討することができる。この結果、色ワーキングメモリの保持には空間的注意が必要ないことが示唆された。これはTreismanらの説を支持するものである。そしてこの結果は、視覚的ワーキングメモリ研究において重要な理論を検討した点で意義深いと言える。 さらにこれに関連して、空間的ワーキングメモリ保持には空間的注意が必要であるとする理論がある(Awh et al., 2000)が、上記の研究の中から、この理論を反証する可能性が出てきた。現在はこの可能性について行動実験を用いて検討中であり、この研究が完成すれば、ワーキングメモリと注意の関係性についてひとつの大きな知見をもたらすことになり、重要であるといえる。
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