研究課題
本研究では、自閉症者における他者に対する選好の弱さに着目し、他者の顔を注視したり、他者とアイコンタクトをとることによって、対人コミュニケーションや学習に重要な役割を果たしていると考えられる模倣行動が向上するかを検討した。これまで、自閉症児では手のポーズの模倣は困難であること、モデルと対面した状況では逆さバイバイのように、手を裏返して模倣する頻度が高いことが報告されている。本年度の実験では、小学生の自閉症児・定型発達児を対象として、対面しているモデルとアイコンタクトをとっている時ととっていない時で、手のポーズの模倣に違いが見られるか検討した。その結果、全体的に定型発達児のほうが自閉症児よりも、モデルの手のポーズと一致した模倣を行い、先行研究の結果が追認された。一方、自閉症児・定型発達児ともに、アイコンタクトあり条件のほうがアイコンタクトなし条件より、モデルの手のポーズと一致した模倣行動を行うことが示された。さらに、自閉症児ではアイコンタクトなし条件よりアイコンタクトあり条件で、手のひらの向きもよりモデルと一致した模倣を行っていることが分かった。自閉症児において、対面している他者とアイコンタクトをとることで、よりモデルの手のポーズと一致した模倣をするという結果は、療育にも活かせる知見であり、本研究は基礎研究と臨床現場との橋渡しとなる重要な研究だと考えられる。今後はアイトラッカーを用いて他者の顔への注視パターンと模倣行動の関係をより詳細に検討したい。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、実際に参加者とモデルが対面して模倣課題を行うライブ課題(実験1)であるが、その後、統制された刺激呈示(映像)による追加実験(実験2)も実施することができた。実験2では、実験1の主要な結果が追認され、両実験をまとめて国際学術誌に投稿できるため。
今後は、自閉症の早期発見・早期療育のためにも、より低年齢の自閉症幼児を対象として、自閉症の状態像を定量的に実証する基礎研究や、アイコンタクトなどに対する社会的反応の促進について検討してきたいと考えている。これまで以上にサンプル数を確保することが難しくなるため、他研究機関との連携を増やして共同研究も行っていきたい。また、自閉症者では顔処理に関して、行動データでは統制群と差が見られない場合でも脳機能データでは差が見られるなど、両者に乖離が生じる報告がなされている。青年期・成人期の自閉症者を対象として、顔に対する注意や顔処理に関して、アイトラッカーを使った注視パターン、脳波計測などによる脳機能データから検討していきたいと考えている。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件)
Journal of Autism and Developmental Disorders
巻: 41 ページ: 629-645
10.1007/sl0803-010-1082-z
Research in Autism Spectrum Disorders
巻: 5 ページ: 1230-1242
10.1016/j.rasd.2011.01.013
巻: 5 ページ: 1264-1269
10.1016/j.rasd.2011.01.021