研究課題/領域番号 |
11J10227
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
富田 文菜 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別研究員(PD)
|
キーワード | ヘモグロビン / 分子生物学 / X線結晶構造解析 / 配位子輸送 / 光解離 / 時間分解測定 / 一酸化炭素 / 動的構造 |
研究概要 |
本研究では、生体の血液中で酸素の運搬を担うタンパク質であるヘモグロビン(Hb)について、配位子(酸素、一酸化炭素等)解離に伴う分子構造変化の過程を、時間分解X線結晶構造解析により動的に観測することを目的としている。そのためには、ヘモグロビンと配位子の複合体単結晶を作製し、放射光施設でのX線回折実験の実施が不可欠である。 まず、測定試料として、酸素よりも光解離の容易である一酸化炭素結合型ヘモグロビンについて単結晶を作製し、高エネルギー加速器研究機構の放射光科学研究施設Photon Factory-Advanced Ring(PF-AR)のビームラインNW14AにてX線回折実験を行った。 今年度のマシンタイムでは、試料を140K程度の低温に保ち、15kHzの高繰り返しレーザーを照射して、配位子の光解離の過程を観測した。その結果、時間とともに、光解離した配位子がヘモグロビン分子内部の空洞にトラップされる様子が観測された。現在この結果を論文にすべく、解析を進めている。本研究の、機能性タンパク質の静的な構造のみではなく、機能発現に伴う動的な構造変化の過程を原子レベルで明らかにしようとする試みは、医療・創薬の分野からみても非常に重要であり、国内外の学会に対しても大きなインパクトを与えるものと期待される。 また、本研究の測定手法として、低温条件下での単色X線回折測定だけでなく、白色X線を用いた室温付近でのタンパク質-配位子相互作用のダイナミクス観測も視野に入れており、アメリカのアルゴンヌ国立研究所内の放射光施設Advanced Photon Source(APS)で開かれた、放射光実験の実習を含む研修会、Workshop on Dynamic X-ray Scattering in Structural Biology 2011に参加した。そこで、生体分子の時間分解ラウエ回折測定の実験手法、解析法及び最近の研究報告等についても有益な情報を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災の影響で2011年6月期のマシンタイムは中止となり、設備の復旧と動作確認の目的で、一部試験的な測定のみを行うに留まったが、2011年11月期、2012年2月期には予定していた測定を行うことができ、当初の研究計画に対してはおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、配位子だけでなく、アロステリックエフェクターを付加したヘモグロビン単結晶についても同様の低温下での単色X線回折測定を試みており、実験結果の解析中である。今後、これらの研究成果を論文にまとめ、発表する予定である。また、未だ課題が多いとされている室温付近での生体分子の時間分解ラウエ回折測定にも積極的に取り組む予定である。
|