研究課題/領域番号 |
11J10247
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山辺 弦 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | ラテンアメリカ文学 / キューバ文学 / 性 / 諧謔 / 文学と政治 / レイナルド・アレナス / ペドロ・フアン・グティエレス / ソエ・バルデス |
研究概要 |
三年間のうち第一年次の計画通り、昨年度はバルデス、グティエレス、アレナスの各作品を精読し、コンピュータを用いた言語分析を取り入れながら、それぞれに共通する「性」と「諧謔」についての論点、より具体的には「記憶の場としての亡命者の性」、「周縁化された者たちの性」「諧謔による公式言説の転覆」を個別にリストアップする作業を中心に行った。その際、特別研究員奨励費を活用することで、一次資料およびキューバ文学関連の資料だけでなく、文学理論および世界文学全般に関する書籍からも多大な示唆を得て、論旨をより強固にすることができた。 また、上記作業に伴う成果として、比較研究の軸となるアレナスの作品、およびキューバ革命とラテンアメリカ作家たちの一般的な関係性を分析する論文二点をまとめることができたことは、震災の影響もあり23年度内の出版には至らなかったものの、上記論旨の基礎固めをするうえで非常に重要であった。またこの過程において、アレナスやラテンアメリカ作家たちの草稿を参照すべく別の研究費(「東京大学グローバル・スタディーズ・プログラム」)を獲得し訪れたPrinceton UniversityのFirestone Libraryでは、バルデスやグティエレスについての批評をも多数入手できたことが望外の収穫だった。そのため、旅費の執行に際しては当初の予定を修正し、上記機関での資料収集を補完するのに最適であるUniversidad Autonoma de Mexicoに目的地を変更して、計画よりも充実した資料・情報収集を行うことができた。 さらに、研究計画では三年次に本格化させる予定の世界文学との比較についても多く有益な着想を得ることができた。その過程で生まれた成果が、共訳として23年度に上梓されたデイヴィッド・ダムロッシュ『世界文学とは何か?』(国書刊行会、2011年)、および「比較できないものを比較する」(『文藝』2012年春季号、pp.36-51)であり、この点にも研究の予定以上の進展を見いだせる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
すでに述べた通り、一次資料および副次的資料の精読による作業は順調に進み、また現時点での刊行が決まっている研究論文二本に結実するという具体的な成果が見られた。また、資料収集についても、当初予定していた分よりもより多くの資料を入手し点検できたことは、本研究の計画以上の進展を跡付ける事実であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の研究計画に従って、各主題の具体的な比較分析を進めていく予定である。すでに予定以上の研究の進展がみられるため、比較考察には特に時間をかけ、入念に論理の精緻化を進めていき、国内外での研究成果発表を目指す。論を今後さらに発展させるための他の研究者との意見交換やインタヴューに関しては、論旨がどのように明確化されるかを柔軟に見極めながら、臨機応変に実施していくこととしたい。
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