研究課題
今年度は、当初の計画には含めていなかった東アジアにも研究対象地域を拡大して、過去1000~2000年間にわたる長期の気候復元に取り組んだほか、年輪を形成しない樹木も解析の対象とした。結果として、気候の復元はもとより、考古学や歴史学、森林生態学などにも波及する知見を得るに至った。主要な成果は以下の通りである。1)東アジアの気候復元と考古材の年代決定ヒノキ(主に木曽産)の現生木、古建築材、考古材、埋没木を材料とし、その酸素同位体比を分析することで、中部日本における過去2000年間の降水量を復元した。復元データを概観すると、数百年に一度の頻度で、数十年の周期成分が増幅していることが明らかとなった。さらに、本研究で作成した酸素同位体比に基づく標準変動曲線を用いれば、樹種や生育環境といった個別の事情に左右されず、様々な出土木材の年代を1年のずれもなく正確に決定できることを実証した。2)週・月レベルでの気候復元の可能性と、森林生態学への応用年輪を形成しないラオス産の樹木を対象とし、木部の成長方向に沿って細かく木材を切削して個別に同位体比を測定したところ、雨季・乾期の季節サイクル(即ち、相対湿度と降水量の季節変化)に同調して酸素同位体比も周期的に変動することが明らかとなり、週・月レベルでの気候復元も可能であることが分かった。さらに、年輪を形成しない樹木であっても、肥大成長に週・月レベルでタイムマーカーを入れることが可能となるため、森林の動態や気候に対する樹木の応答といった生態学的な解析にも酸素同位体比が有用であることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
東南・南アジアの各地で取得した酸素同位体比データをもとに、低緯度アジアの気候変動の実態を過去数百年にわたって明らかにし、その変動メカニズムについて合理的な解釈を与え複数の論文として公表できた。さらに、当初の計画には含めていなかった東アジアにも研究対象地域を拡大し、過去2000年間にわたる気候復元を成し遂げたほか、考古学や歴史学、森林生熊学といった関連分野にも貢献できる成果を最終年度(25年度)に上げた。
本研究課題の最終年度(25年度)を含む過去3年間で、年輪セルロースの酸素同位体比から低緯度アジアの降水量を高精度で復元できることが実証できたので、今後は、アジア全域を対象として、気候復元の地域拡大と遡及期間の延長を進め、モンスーン変遷の実態とその変動メカニズムについてより詳細に解析していく。さらに、年輪内を細かく分割して酸素同位体比を測定することにより、月レベルまで解像度を上げた気候復元研究にも取り組んでいく。
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