研究概要 |
出芽酵母グルタチオンペルオキシダーゼ1(以下Gpx1)の細胞内機能を明らかにするために、以下の研究を行った。gpx1Δがオレイン酸培地で生育低下を示すこと、ならびにgpx1Δ株ではペルオキシソームの形成が遅れることを報告した(BBA,1821,1295-1305,2012)。オレイン酸培地での生育低下の原因を探るため、オレイン酸培地で形成が大きく誘導される油滴(Lipid droplet、以下LD)に着目した。その結果、gpxlΔ株ではLDの蓄積量が減少していることを見いだした。しかしながら、トリアシルグリセロールの合成に関わる因子を高発現し、LDの合成を促進させても、gpx1Δ株のオレイン酸培地での生育低下は回復しなかったことから、gpx1Δ株のLD蓄積量の減少は直接的な要因ではないと考えられた。次にペルオキシソームの形成遅延、LDの蓄積量の減少から、ペルオキシソームとLDの膜の供給源として知られる小胞体(ER)に着目した。ERストレス応答として、UPR(unfolded protein response)とERAD(ER associated protein degradation)について検討を行ったところ、gpx1Δ株ではERストレス応答が野生株より減少していた。このことから、gpxlΔ株ではERストレス応答を正常に惹起できないため、ERからの膜の供給が滞っているのではないかと考えられた。また、DNAマイクロアレイによりWTとgpx1Δ株の遺伝子発現量の違いを検討したところ、大変興味深いことに、細胞壁のマンノプロテインの発現量が大幅に減少していることを見いだした。細胞壁の恒常性はオレイン酸の毒性を軽減するために必要であることが知られている(Lockshon et al.,Genetics,2007)。これらのことから、gpx1Δ株のオレイン酸培地での生育低下には細胞壁の脆弱性も関与している可能性が考えられた。
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