本年度は、個体間の同期作用にかかわるものとして、二者間以上のコミュニケーションに着目した多岐にわたる研究に取り組んだ。第一に、基礎的研究として、言語的コミュニケーションの成立に関わる要因の一つとして、文字の読み書きに着目した脳機能研究に取り組んだ。健常成人・定型発達児および読み書き障害児を対象としたfMRI研究より、文字の読み書きに関わる脳機能を明らかにするとともに、日本語圏における学習障害児の病態の一端を解明した。第二に、障害児に関わる長期実践研究として、コミュニケーションの困難さを主徴とする自閉症スペクトラム障害(ASD)において、対人相互交渉の成立を阻む要因を検討した。約4年にわたるASD児との長期実践研究から、従来指摘されていた他者理解の問題のみならず、自己理解の特異性の影響を見出した。第三に、学習障害やASD等の発達障害児におけるコミュニケーションへの支援に向けて、児の症状評価のための尺度作成に取り組んだ。約1300名の本邦児童・生徒のデータを収集し、解析したところ、高い妥当性・信頼性が認められた。また、不注意や多動性等の症状について、発達的変化や男女差が存在することを見出した。これらの知見の一部は、主要な報道機関に取り上げられるなど、学術的にも社会的にも意義深い成果となった。三年間を通じて、他の研究機関とも積極的に連携し、計画的に研究遂行を行ったことで、本研究課題に対して、当初期待していた以上の研究進展と成果を上げたものと考える。
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