研究概要 |
本研究では農業経営の経営成長における組織化メカニズムを解明するため,「農業生産部門のみ」から脱却し,農業と他産業との連携による農業の付加価値を創造する農業経営体を対象に,事業拡大における経営体の有するネットワークとその形成要因について分析した。なお,研究対象は農家(個別),組織,クラスターの各レベルとした。 研究初年度(平成23年)には,農業経営諸活動における農家の持つネットワークの構造と特徴,また,事業拡張における農家の持つネットワーク構造と特徴について解明した。その結果から,稲作農家は新たな米の生産方法や他作目導入,流通・加工事業部門の導入において,既存のネットワーク(所与関係)に限定せず,農家組織へ自ら参加するなど,農家自身のネットワーク拡大による組織的な対応が進展することが示唆された。なお,そうした連携関係の形成は農家の所与関係より選択関係から構築される特徴がある。また,農業経営の事業拡張に関連した情報を入手するためには,農家組織へアクセスできるネットワーク構築能力と,その組織に参加できるための「地域での評判(信用・信頼)」が求められることから,事業拡張において関連主体との関係構築が非常に重要な要素であることが明らかになった。加えて,ネットワークを基準に農家を類型化して経営の特徴を比較した結果,小範囲・ネットワーク閉鎖型農家と広範囲・ネットワーク解放型の経営主の経営形態には明確な差が存在していることが確認できた。こうしたネットワークと農業経営との関連性が存在していることが確認されたことから,農業経営におけるネットワーク,すなわち,リレーションシップ・マネジメント能力が重要な経営要素であり,その管理・維持が経営成長において重要であることが示唆された。今後は組織経営体や地域農業クラスター事業団を対象に経営成長におけるネットワーキングの仕組みや成功要因について検討を進める。
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