研究概要 |
有機塩基を触媒とする合成プロセスは原子効率100%の結合形成を可能にするため、環境負荷の小さい合成手法として注目を集めている。本研究では光学活性有機塩基としては世界最高レベルの塩基性を示す[5.5]-P-スピロ型キラルトリアミノイミノホスホランを利用して、既存の反応系を凌駕する基質適用範囲を目指した新たな高立体選択的結合形成反応の開発に取り組み、またこの手法を通したキラル素子を効率的に与えるための合成プロセスの開発に注力し、本触媒の合成化学的力量を明らかにすることを目的とする。当該年度では、一般に合成が困難なニトロ基近傍に官能基を持たないキラルなニトロアルカンを得るための2段階プロセス開発に取り組んだ。具体的には、昨年度までに見出した本イミノホスホラン分子を触媒とするα, β-不飽和テトラゾリルスルホンへのニトロアルカンの不斉共役付加反応の生成物をJulia-Kocienskiオレフィン化によりアルケンへと変換するための反応条件の最適化を行った。種々検討を行った結果、低極性溶媒と嵩高い塩基を用いることで酸性度の高いニトロ基のα-プロトンの脱離を経ず、光学純度を保ったままキラルα-アリルニトロアルカンが得られることを見出た。またビニルスルホンからキラルα-アリルニトロアルカンへのワンポット合成にも成功し、本法の合成化学的な有用性を明示した。加えて芳香族アルデヒドへの直裁的不斉Henry反応の条件検討を再度行い、立体選択性の向上並び基質適用範囲の拡張に成功した。また本手法を利用して、CETP阻害薬アナセトラピドの前駆体ならびアドレナリンβ3受容体作動薬を効率良く合成するプロセスを開発した。一方イミノホスホランを触媒とする不斉[2,3]-転位反応については触媒構造並びに反応条件の検討している段階であり、早期に反応効率および収率の改善を図りたい。
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