アドレノメデュリン(AM)は全身で産生される多機能ペプチドである。AMホモノックアウトマウス(AM-/-)では、心血管系の発生異常により胎生致死となる。AM受容体の活性や特異性はRAMPという膜タンパクが調節している。我々は、RAMPのサブアイソフォームの内、RAMP2ホモノックアウトマウスのみがAM-/-同様に胎生致死になる事を報告している。 本研究では、薬剤誘導型心筋細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(C-RAMP2-/-)を独自に樹立し、従来胎生致死となるために不可能であった成体の心臓における詳細な解析を行った。前年度は、C-RAMP2-/-で心不全の自然発症を認め、さらに発症初期から心筋ミトコンドリアに異常を認める事を明らかにした。 平成24年度は、C-RAMP2-/-における心不全発症メカニズムの検討と治療実験を実施した。経時的な遺伝子発現の変化をリアルタイムPCRにより検討したところ、C-RAMP2-/-の心臓ではミトコンドリア制御因子PGC-1αの遺伝子発現変動が、心不全関連因子の変動に先行して認められた。ウエスタンブロットでは、PGC-1の制御に関わることが報告されているCREBのリン酸化低下が認められた。C-RAMP2-/-におけるCREB制御機構を明らかとするために、AM-RAMP2系の下流シグナルを検討したところ、細胞内cAMPの減少や、AMの下流シグナル分子のリン酸化低下が認められた。また、フォルスコリン投与により細胞内cAMPを増加させたところ、C-RAMP2-/-の心不全に改善が認められた。同様にC-RAMP2-/-の初代培養心筋細胞にフォルスコリンを添加したところ、ミトコンドリア膜電位などに改善を認めた。 以上の結果から、AM-RAMP2系は心筋ミトコンドリアの機能維持・制御を介して心臓の恒常性維持に重要であることが明らかとなった。
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