研究概要 |
TyrrellやWillshawの小脳のネットワークモデルで使われているニューロンモデルは線形閾値素子である.そのため,彼らのモデルは時間的加重について考慮されていない.これまでに構築した我々のモデルは時間的加重を考慮したHodgkin-Huxley型モデルで構築されている.このモデルを利用することによってMarr-Albus仮説を示すことを目指す.我々のこのモデルに関して,2011年7月14日にPLoS Comp. Biolo.に採録された.さらに,ここまでの研究をまとめ,短期で学位を取得した. 顆粒細胞の出力パターンが時間情報をコードするばかりでなく,空間情報もコードしていることを示すために,これまでに構築したニューロンモデルに苔状線維を加えた.そして,苔状線維を加えても顆粒層の同期発火活動は維持されるかどうかについて確認した.解剖学で得られている細胞数と小脳糸球体の構造を考慮することによって,苔状線維の活動がおよそ5Hzのとき顆粒細胞の同期発火がおよそ14Hzとなることを示した.また,小脳糸球体の構造を考慮しないとき,その同期発火活動は見られなかった.ゴルジ細胞の電気的な結合を切っても顆粒細胞やゴルジ細胞の活動も変化しなかった.しかし,顆粒細胞からゴルジ細胞への結合を切るとその同期発火は消えた.これらの結果から,小脳糸球体の構造と顆粒細胞からゴルジ細胞への結合が同期発火活動の発生に必要であることが示唆された.この研究は東北脳科学ウィンタースクールでポスター発表優秀賞、JNNS2011で大会奨励賞を受賞している. 現在までに,苔状線維の活動がおよそ30Hzのとき顆粒細胞が時間経過を表現できることを確認し,空間情報について調べる準備を整えているところである.
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、顆粒細胞に苔状線維からの入力を入れることができるモデルを作成できた.このモデルがHonda et al.2011の再現できることを確認した上で,「Tyrrell-Willshaw仮説 vs Marr-Albus仮説」について苔状線維と顆粒細胞だけのネットワークモデルにおける顆粒細胞集団の発火パターンを調べ,顆粒細胞への苔状線維入力を区別することができるかどうかについてシミュレーション実験を行う.さらに,一つのゴルジ細胞を用いたネットワークモデルについて,区別可能かどうか調べる.最後に,多数のゴルジ細胞を加えたネットワークモデルを構築し,その性質を調べる.細胞数の比に依存して,コードできる空間情報量が変化することが期待される.より詳細な小脳スパイキングネットワークモデルから得られた知見を書き換え可能なLSIであるFPGAで表現し,バイオメタルの運動のタイミングを制御できるシステムを開発を目指す.
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