研究概要 |
本年度は,陽極酸化によってβ型Ti合金のTi-29Nb-13Ta-4.6Zr(TNTZ)およびTi-13Cr-1Fe-3Al(TCFA)の骨伝導性を向上させることを念頭に,まず骨伝導性の向上に有効な平滑表面を維持しつつ,アナターゼ(anatase)皮膜を成膜する条件を検討した.TCFAでは平滑なanatase皮膜を成膜することができなかったが,TNTZでは,0.1M H_2SO_4水溶液中で,印加電圧が150Vの時に表面の平滑なanatase皮膜を成膜することができた.しかし,その骨伝導性は高くなく,同様のanatase皮膜をTi表面に成膜した場合とは異なる傾向を示した.その原因を調べるために,皮膜の親水性を評価したところ,水滴接触角は60(deg.)程度を示し,Ti表面に作製したanatase皮膜の骨伝導性に関する先行研究で示された,骨の生成しにくい表面における水滴接触角と一致することが分かった.そこでNb,Ta,Zrの単体金属,ならびに各合金元素とTiとの2成分系合金を用いて,TNTZ表面に成膜したanatase皮膜の親水性におよぼす合金成分の影響を検討したところ,TNTZ合金中に多く含まれるNbの酸化物が,TNTZの陽極酸化皮膜の親水性を低下させることが示唆された.以上を総括すると,平滑表面を有する場合,合金においても親水性が骨伝導性に強く影響することが明らかとなり,今後は親水性を軸とした表面設計を検討する必要性が示唆された. また,表面平滑化とは逆行するものの,純Tiにおいて骨伝導性の向上に効果のあることが確認された高濃度(>3M)H_3PO_4水溶液中でのスパーク陽極酸化をTNTZ,TCFAにも試みた.いずれの合金においても,多量のPO^<3->_4を含有するanatase皮膜が生成し,TCFAの骨伝導性はTiと同様に大きく向上するものの,TNTZの骨伝導性はわずかに向上するのみであった.このとき,TNTZ表面には合金成分が存在し,TCFA表面には合金成分はほとんど存在しないことまで分かっているが,その影響については現在研究を進めている段階である.
|
今後の研究の推進方策 |
●これまでとは異なる試みとして,陽極酸化以外の方法で,TNTZおよびTCFA合金表面を親水化するための表面処理法を検討する.具体的には,水熱処理,プラズマ照射,紫外線照射を用いた親水化を検討している. ●本年度に引き続き,TCFA合金の最適な陽極酸化処理法を検討する.特に,TNTZ合金とは異なり,酸化条件によって皮膜表面における膜組成が大きく変化することから,合金成分量の少ない表面を有する酸化皮膜の創製を試みる.
|