研究課題/領域番号 |
11J10516
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
手島 哲彦 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 寄生虫 / 細胞内感染 / マイクロ加工デバイス / 膜タンパク質 / 細胞接着性タンパク質 / MEMS |
研究概要 |
本年度は、偏性細胞内寄生体である原虫細胞を用い、宿主細胞内への過程を観察するマイクロ加工デバイスを作製した。用いた原虫はトキソプラズマ原虫と呼ばれる寄生性細胞であり、培養が非常に困難なマラリア原虫と同じ類に属することから、細胞内外で発現されるタンパク質と類似性が高く、マラリア原虫の感染モデルとして研究が行われている。原虫は感染性微生物であり、特別な実験培養設備が必要であるため、東京慈恵会医科大学熱帯医学講座研究室における研究設備の使用を申し出、許諾されている。宿主細胞を生体適合性の高いポリマーであるポリパラキシレン(Parylene)を微細加工技術を用いて、ナノサイズの厚みとマイクロサイズの幅を持つ構造体を作製し、細胞接着性タンパク質をパターニングした。宿主細胞にはヒト由来繊維芽細胞であるHFF細胞を用い、マイクロ構造体の平面上においてパターニングできるか否かを試みた。また磁場応答性の金属を蒸着してパターニングすることにより、外部磁場を与えることで遠隔的に細胞の位置や向きなどの制御とハンドリングが可能なデバイスに加工した。これにより原虫が宿主細胞内へ侵入し、感染する現象を顕微鏡下で観察できるデバイスを作製した。本研究の成果により、これまで不可能であったマイクロサイズの非常に小さな微生物の宿主細胞への侵入過程の詳細な映像取得に成功した。本研究の成果は、これまで細胞内に溶け込み血中内抗体などの攻撃を回避する性質をもつことで困難であった細胞内寄生性微生物の観察に秀でており、今回用いたトキソプラズマ原虫にとどまらず、マラリア原虫やバベシア原虫などの他の寄生虫、また赤痢菌などの細菌類の細胞内寄生メカニズムの解析にも応用が可能である。また研究のための実験系の確立だけでなく、さらなる光学系の付加により感染診断キットへの応用の基盤となることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標であった、感染微生物である原虫細胞の観察系の確立と、宿主細胞の単細胞レベルでの単離を、リソグラフィー技術を用いたパターニングにより成功した。またマイクロ加工技術を用いたデバイス中において、細胞内への侵入過程という本研究において根幹となる現象を観察することに成功し、当初の目標を大いに達成していると判断した。本研究では、感染性微生物を用いているため、その使用が可能な実験設備を供与してくれる共同研究先を見つけ出し、その中での微生物の単離と培養方法を取得することが非常に困難であり、最も時間と労力を要した。
|
今後の研究の推進方策 |
原虫細胞の宿主細胞への侵入過程を観察するデバイスを作製することに成功したため、次年度より原虫細胞の宿主細胞の膜上での感染の詳細な映像の取得、蛍光顕微鏡と共焦点顕微鏡を用いて侵入に必要な膜タンパク質の同定など分子生物学的ツールを用いた知見の取得を試みる予定である。またトキソプラズマ原虫だけでなく、マラリア原虫のハンドリングの習得に専念し、マラリア原虫の赤血球細胞への観察過程の観察デバイスを作製する。
|