研究概要 |
最終年度である本年度は、偏性細胞内寄生体である原虫細胞を用い, 宿主細胞内への過程を観察するマイクロ加工デバイスを二種類、作製した。用いた原虫はトキソプラズマ原虫と呼ばれる寄生性細胞であり、培養が非常に困難なマラリア原虫と同じ類に属することから、細胞内外で発現されるタンパク質と類似性が高く、マラリア原虫の感染モデルとして研究が行われている。原虫は感染性微生物であり、特別な実験培養設備が必要であるため、東京慈恵会医科大学熱帯医学講座研究室における研究設備の使用を申し出、許諾されている。宿主細胞を生体適合性の高いポリマーであるポリパラキシレン(Parylene)を微細加工技術を用いて、ナノサイズの厚みとマイクロサイズの幅を持つ構造体を作製し、細胞接着性タンパク質をパターニングした。宿主細胞にはヒト由来繊維芽細胞であるHFF細胞を用い、マイクロ構造体の平面上においてパターニングできるか否かを試みた。また磁場応答性の金属を蒸着してパターニングすることにより, 外部磁場を与えることで遠隔的に細胞の位置や向きなどの制御とハンドリングが可能なデバイスに加工した。形状として二種類あり、一つは単一細胞をハンドリングする直径50μm以下のマイクロプレートと多細胞をハンドリング可能なマイクロディスクである。これにより原虫が宿主細胞内へ侵入し、感染する現象を顕微鏡下で観察でき、かつ単一細胞レベルでも多細胞レベルでも両方ハンドリングできるデバイスを作製した。本研究の成果により、これまで不可能であったマイクロサイズの非常に小さな微生物の宿主細胞への侵入過程の詳細な映像と侵入中に宿主細胞の細胞骨格と相互作用を行うことを示す共焦点顕微鏡画像を取得に成功した。本研究の成果は、これまで細胞内に溶け込み血中内抗体などの攻撃を回避する性質をもつことで困難であった細胞内寄生性微生物の観察に秀でており、今回用いたトキソプラズマ原虫にとどまらず、マラリア原虫やバベシア原虫などの他の寄生虫、また赤痢菌などの細菌類の細胞内寄生メカニズムの解析にも応用が可能である。また研究のための実験系の確立だけでなく、さらなる光学系の付加により感染診断キットへの応用の基礎となることが期待される。
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