研究課題/領域番号 |
11J10575
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
武下 愛 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 流産 / 妊娠高血圧症候群 / 補体 |
研究概要 |
平成24年度は研究計画に基づき、自然流産モデルマウスでのadipsinの発現変化と栄養膜細胞株におけるadipsin発現を解析した。 DBA/2雄マウスと交配させたCBA/J雌マウスは自然流産モデルとして広く用いられており、妊娠高血圧症候群のモデルとしても期待されている。そこで妊娠14,5日目のCBA/J×DBA/2自然流産モデルマウスにおける胎盤内および血清中での補体C3、補体第二経路活性化因子factor Bとadipsin、および補体抑制因子Crryの発現変化を検討した。コントロールとして用いたCBA/J×BALB/c群と比較して、CBA/J×DBA/2群の胎盤ではC3とadipsin、Crryの発現が上昇していた。しかしfactor Bに変化は見られなかった。また血清濃度を測定すると、C3やCrryは変化が認められなかったのに対しadipsin濃度は増加していた。 胎盤を形成する栄養膜細胞の幹細胞(栄養膜幹細胞)と栄養膜細胞を分化して得られる栄養膜巨細胞におけるadipsin発現を検討した。どちらの細胞株でもadipsinのタンパク発現は見られず、mRNA発現も低レベルであった。上記実験で血清濃度に変化が認められたことを併せて考えると、胎盤内に分布するadipsinは胎盤外で産生され血流により胎盤内へ運搬されていると推察される。 以上のことより、CBA/J×DBA/2自然流産モデルマウスでは全身性のadipsin発現増加が胎盤内の補体活性化を引き起こし、流産率を増加させていると推察された。これはヒトの不妊体質診断や不妊治療にも応用できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胎盤内で認められたadipsinの発現上昇は、胎児由来細胞である栄養膜細胞であると予想していたが、in vitroの実験により栄養膜幹細胞や栄養膜巨細胞ではadipsin発現が非常に低いことが明らかとなった。しかし自然流産モデルでは血清濃度に有意な差が認められたことから、不妊治療への応用など新たな可能性が見出された。
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今後の研究の推進方策 |
CBA/JxDBA/2自然流産モデルマウスで増加が見られた血清中adipsinについて、妊娠初期に遡り発現変化を追う。その際、adipsinの産生部位についても検討を行い、補体抑制による不妊治療の可能性を探る。また流産モデルのコントロールとして用いられるCBA/JxBALB/cマウスにadipsinのリコンビナントタンパクを投与し、胎子吸収率の変化を検討する。さらに補体が可溶性血管新生因子sVEGFの発現量に影響を与えるという報告から、血清中のsVEGFや胎盤内の血管構築の変化を解析する。また平成24年度に入手した補体抑制因子のノックアウトマウスについて、妊娠への影響を解析する。
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