研究概要 |
本研究は、独自の研究成果に立脚した独創的な分子遺伝学的手法とゲノムワイドな手法を用いて、1)生体に必須の役割を持つ脂質の一つであるイノシトールリン脂質:PI4,5P2を介するシグナル伝達経路の制御因子の同定を行い、2)イノシトールリン脂質の空間的ダイナミクスの制御機構を細胞内輸送システムに焦点をあてて明らかにすることで、3)イノシトールリン脂質シグナルネットワークの解明をめざすものである。本年度は以下のことを明らかにした。 PI4,5P2のマーカーであるGFP-PH,PI3PのマーカーであるGFP-FYVEなどのプラスミドを駆使して、細胞内輸送変異細胞における脂質の細胞内局在を可視化した。その結果、野生細胞に比べ、細胞内輸送変異細胞において、PI3Pの局在は変化しなかったのに対し、PI4,5P2は細胞膜への局在が顕著に低下し、細胞質に局在した。この結果から、細胞内輸送に関与する因子はPI4,5P2の局在を空間的に制御することが考えられる。またPI4P5キナーゼ過剰発現に伴う細胞増殖抑制を回復する因子として同定されたSlp2に関して、昨年度確立したタンパク質-脂質結合アッセイのシステムを用いて、Slp2の結合脂質を同定した。Slp2はこれらの脂質と結合することで、PI4,5P2の代謝に重要な影響を与えていることが示唆される。さらに、京都大学と共同研究を行い、Its3過剰発現細胞の脂質プロファイリングを測定した。正常細胞と比較すると、Its3過剰発現細胞において、イノシトールリン脂質のバランスが崩れた結果を得た。しかし、Slp2を同時に発現すると、脂質のバランスが正常細胞に近づくようになった。この結果から、脂質結合タンパク質は脂質のバランスを制御することが考えられる。
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