研究課題/領域番号 |
11J10645
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
亀田 勇一 東北大学, 大学院・生命科学研究科, 特別研究員(PD)
|
キーワード | 軟体動物 / 陸上進出 / 洞窟 / 地下水 |
研究概要 |
本研究では、リソツボ上科の腹足類のうち、淡水や陸上へも進出して多様化を遂げているカワザンショウガイ科、イツマデガイ科、ヌマツボ科に特に焦点を当て、ハビタットシフトや多様化のパターンの解明を目指している。 カワザンショウ科では、日本固有かつ科内で唯一の真洞窟性陸貝であるゴマオカチグサ属について、本年度の野外調査で新たに分布の新記録かつ新種とみられる個体群を幾つか見出した。また、分子系統解析と分化年代推定の結果からは、本属の洞窟進出の経路は他の陸棲洞窟動物にはみられない特異なものであると考えられ、洞窟生物の進化について新たな知見をもたらす可能性がある。 イツマデガイ科では、科全体を対象に解析を行った。本科は基本的に水生であるが、日本でのみ陸棲種が進化していることが知られている。分子系統解析と分岐年代推定の結果、本科の陸棲種の進化は多雲地域の形成と密接に関わっていることが明らかになった。本研究は寒冷地で陸上進出が生じた可能性を示唆する初めての報告であり、生物の陸上進出過程を理解する上で新たな視点を提示するものである。これらの成果はBMC Evolutionary Biology誌およびMolluscan Diversity誌に掲載された。 ヌマツボ科では、日本に分布するアキヨシミジンツボ属(地下水棲)とホラアナミジンニナ属(渓流棲)について、野外調査による採集と分子系統解析を行った。その結果、本属においても洞窟性は複数回起源していることが明らかとなったが、洞窟内外の個体群は遺伝的に近縁ではなく、現在の分布パターンは絶滅や再分散、ハビタットシフトなどが複雑に絡んだ結果であると推定された。これらの成果については学会にて発表を行ったほか、次年度中の論文投稿を予定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外調査においてはリソツボ上科貝類が順調に採集できており、そのハビタットと分布パターンの全貌が明らかになりつつある。また、イツマデガイ科に関しては既に論文として公表されたほか、カワザンショウ科やヌマツボ科についても系統解析を進めており、その多様化と洞窟適応の過程を推定するに足るデータが揃いつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
研究材料の分布域から考えて、現段階では四国や関東地方の調査が不足しているため、今後垂点的に調査を行う。また、カワザンショウ科については、より信頼性の高い系統解析を行う必要があるため、新たな遺伝子マーカーを開発する予定である。それ以外については概ね計画通りに進められており、データの揃ったグループから論文化をすすめていく。
|