本年度は、淡水や陸上へも進出して多様化を遂げているカワザンショウガイ科に焦点を当てるほか、日本列島に分布する他の陸産貝類についても平行して調査を行い、その種多様性や種分化のパターンについて解明を試みた。 カワザンショウ科では洞窟棲のゴマオカチグサ属に焦点を当てており、本年度は比較的小さな地理的スケールでの遺伝的分化のパターンを把握すべく、岡山県北部の石灰岩地域を中心に調査を行った。また、非洞窟棲種についても、未検討の個体群を網羅すべく宇治群島・五島列島で採集を試みた。本属以外にも今年度の調査で日本未記録の属が新たに確認されたほか、20年以上採集報告がなく、絶滅した可能性もあったキバオカチグサ・ミヤコオカチグサ・ナガヤマヤマツボについても生存を確認し、それらの形態観察や系統的位置の検討を進めている。これらの結果の一部は過去の学会等において発表を行っており、追加サンプルの解析が完了し次第、論文を執筆する予定である。 上記と平行して、日本列島を中心とする東アジアの陸産貝類相全体の成立・多様化の過程を把握すべく、主要なグループについて系統地理学的解析を進めた。また、多様性を維持する要因のひとっである近縁種共存の仕組みを理解すべく、ニッポンマイマイ属を材料に生殖隔離の観点からこの問題に迫ることを試みた。中国・四国地方に生息する種群を網羅的に解析し、多数の隠蔽種を見出した。これら隠蔽種の分布は繁殖干渉のパターンを示す上、生殖器の特定部位の形態が互いに異なることから、この形質が生殖隔離に有効である可能性を見出した。この予測が正しければ、陸産貝類における既知の生殖隔離機構とは異なる、新しいパターンであると考えられるため、その検証に向けて交尾実験を継続している。 これらの成果の一部は既に原稿執筆を完了しており、残りの多くも論文は完成に近づいている。今年度中の投稿を予定している。
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