研究概要 |
本研究はMEMSセンサとレーザー干渉法を用いて,沸騰の最小単位ともいえる孤立気泡核沸騰の伝熱メカニズムを調べることが目的である. 平成23年度は,MEMSセンサで取得された気泡下局所温度をもとに伝熱解析を行い,壁面熱輸送を定量的に評価した.その結果から,気泡下に形成される厚さ数ミクロンのミクロ液膜の蒸発が水の孤立気泡核沸騰における壁面熱輸送では支配的な伝熱メカニズムであることが明らかとなった.このことは現在盛んに行われている沸騰の数値シミュレーションにおいてミクロ液膜をマイクロスケールで精緻に表現することの重要性を示している.また一方で,気泡内潜熱と壁面熱輸送の比較から,気泡周囲の過熱液相の蒸発によって生じる液相伝熱も気泡成長に重要な役割をもつことが明らかとなり,液相熱輸送計測の重要性が確認された.液相熱輸送計測に関しては,小型マッハツェンダー干渉計を構築するとともに撮影された干渉像をヒルベルト変換による位相算出,最小木探索法による位相接続を用いて温度場へと変換するソフトウエアを開発した.実験ではMEMS伝熱面上で発生させた孤立気泡の成長,離脱上昇過程での液相温度場を計測した.その結果成長気泡が伝熱面上の温度境界層を変形させる様子や離脱気泡が温度境界層を上方へと随伴する様子など沸騰時の巨視的な熱流動場の観察を行うことができた.しかし,本来の目的である液相からの蒸発伝熱は干渉計の分解能の不足から達成されず,今後,レンズの高倍率化,カメラの高解像度化が必要であることが分かった.最後に次年度以降の研究に向け,従来よりも高精度かつ詳細な計測が行えるMEMSセンサを設計製作し,沸騰実験を実施した.計測データからはミクロ液膜の蒸発やドライアウト,ドライアウト領域のリウェッティングなど気泡下の高速かつ局所な伝熱現象が子細に観察され,新たなセンサによって,計測点が増加し,詳細な計測が行えることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
壁面熱輸送に関しては計画通り伝熱解析手法を構築し,主要な伝熱メカニズムを同定することができ,次年度以降のより詳細な計測に向けて新たな沸騰用MEMSセンサの開発を行った.液相熱輸送に関しては巨視的な温度場を計測できたものの解像度の不足により熱輸送計測に至らなかったが,簡易の二次元対流熱伝導計算から液相熱輸送計測に必要な計測系の改善点を明らかとした.
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今後の研究の推進方策 |
24年度は新たに開発した沸騰MEMSセンサにより,壁面過熱度,サブクール度,壁面上の温度境界層厚さなど,実験パラメータをより詳細に把握した条件での実験を行い,数値計算結果との比較や理論的検討を行うに十分な実験データの取得を目指す.またこれまでは飽和沸騰を狙った実験のみを行ってきたが,サブクール沸騰を対象にした実験も実施し,気泡の凝縮が壁面熱輸送特性に与える影響を調べる.液相熱輸送に関しては,23年度に確認したレンズやカメラなど計測系の改良を実施し,成長気泡周囲に形成される厚さ20~30ミクロン程度の蒸発温度境界層の観察とその結果をもとにした液相熱輸送の評価を行う.
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