研究概要 |
セラミックス粉末は工業的には固相反応法によって合成されているが,その固相反応が水蒸気雰囲気下では大幅に促進される。そのため,固相反応を促進させる水蒸気触媒作用を明らかにすることは,機能性複酸化物の低温固相合成プロセスの構築に繋がると期待される。本年度は,固相反応によるチタン酸バリウム(BaTiO_3)の合成におよぼす水蒸気作用を明らかにするとともに,酸化物結晶構造内の酸素多面体間に働く水蒸気作用を捉えることを目指した。水蒸気雰囲気下でのBaCO_3とTiO_2との固相反応によるBaTiO_3の生成促進機構として, 1. BaCO_3の熱分解促進, 2. Ba(OH)_2の形成と気相輸送, 3. TiO_2粒子表面の結合切断, 4. 空孔形成によるイオン拡散促進の4つの機構を検討した。特に,熱力学的データを用いた物質の蒸気圧計算から水蒸気中では蒸気圧の高いBa(OH)_2が形成され,気相を介してTiO_2粒子表面へ輸送されることを明らかにした。また,酸素同位体で一部置換された水を水蒸気として導入した固相反応により,BaTiO_3の生成過程で雰囲気中の水蒸気がBaTiO_3構造内に非常に多く取り込まれることがわかった。一方,酸化物結晶構造内の酸素多面体間に働く水蒸気作用を捉えるため,水蒸気雰囲気下での酸化物の焼結および結晶化をおこなった。本年度はTiO_2,Y_2O_3安定化ZrO_2の焼結および非晶質SiO_2の結晶化を実施した。特に,TiO_2の焼結では水蒸気がTiO_2の粒成長を著しく加速させるとともに,低温から密度の高い焼結体を与えることを見出した。酸素同位体水を用いたTiO_2の焼成実験から,TiO_2構造内に水蒸気酸素が取り込まれることを確認した。また,非晶質SiO_2の結晶化反応も水蒸気によって促進された。水蒸気が効果的に作用したTiO_2およびSiO_2において,それらを出発原料とした機能性複酸化物の固相合成が水蒸気雰囲気下で低温化できる可能性が示唆され,チタン酸塩系誘電体材料やケイ酸塩系蛍光体材料の低温固相合成への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,固相反応を促進させる水蒸気触媒作用および酸化物結晶構造内の酸素多面体間に働く水蒸気作用を明らかにすることを目的としているが,前者に関しては,酸素同位体を用いてチタン酸バリウムの生成促進機構の検証を着実に進めることができた。後者に関しては,対象とする酸化物を絞り込むことによって,機能性複酸化物の低温固相合成へ効果的に繋げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
酸化物結晶構造内の酸素多面体間に働く水蒸気作用に関しては,特にTiO_2結晶構造内のTiO_6八面体に対する水蒸気作用の解明に特化して研究を実施する。また,平成23年度に得られた知見をまとめ,国際誌へ投稿する。さらに,水蒸気を導入した機能性複酸化物の低温固相合成への応用として,環境浄化用多孔質セラミックスフィルター材料を見据えたチタン酸塩系多孔体およびジルコン酸塩系多孔体の合成をおこなう。
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