研究課題
ブドウ球菌属と哺乳類の共進化関係を明らかにするために、55科、151種、1667個体の哺乳類からブドウ球菌種を分離し種同定を実施した。その結果、霊長類とStaphyloeoeeus aureus group、ローラシア獣類とS. delphini-groupがそれぞれ共進化関係にあることを見いだした。その情報をキャリブレーションポイントとし、ブドウ球菌属全43種および最近縁他属であるMaerococcus easeolyticusの全ゲノム情報から選び出した31のオルソログ遺伝子(重複、水平伝播、incompletelineage sortingの影響を受けていないオルソログ)を用いたアミノ酸配列による分岐年代推定を実施した。ブドウ球菌属の共通祖先が出現したのは約2億3000万年前に遡り、最古の哺乳類化石出土時期と極めて近い年代を示した。また、S. seiurt-groupの分岐以降のStaphylococcus属の共通祖先出現は約1億8000年前に遡ったが、ちょうどその時期、地球上では、哺乳類が有袋類と有胎盤類へと分岐しはじめ、パンゲア大陸の南北への分断が始まっていた。このことから、ブドウ球菌は哺乳類出現とともに地球上に出現し、現生のブドウ球菌種の大部分は有胎盤類と共進化してきたことが示唆された。ブドウ球菌属のゲノム進化がどのような方向性をもって進んできたのかを推定するために、Firmicutes門におけるBacillus属、Streptococcus属およびStaphylococcus属の3属間コアゲノム比較を行なった。Staphylococous属は無機イオン輸送関連遺伝子を全種で固く保持し、皮膚組織で激変する浸透圧に耐えうる耐塩性進化を遂げたことがわかった。炭水化物、核酸、アミノ酸、補酵素代謝関連もブドウ球菌属は3属中最も固く保持しており、全種が同一ニッチで共通の代謝活動を営んでいることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ブドウ球菌属全菌種の全ゲノム配列の取得が済み、分岐年代推定、ゲノム比較などで一定の成果をあげられた。また、この間、ゲノム解析の種々の手法を習得し、今後更なる進化学的解析が実施できる技術に習熟することができた。論文作成の面で幾分遅れが出ているが、今後有機的な考察を固めた上、海外学術誌上で発表したい。
これまでは包括的な解析に主眼を置き、他属にはみられないブドウ球菌属特有のゲノム進化はいかなるものであったかを概観してきた。今後は、ブドウ球菌属のコアゲノムをパスウェイごとにカテゴライズし、進化速度をベースにした解析手法でどのような傾向がみられるかを探りたい。どのパスウェイの発達あるいは退化がブドウ球菌進化に重要であったのかを明らかにすることにより、ブドウ球菌が哺乳類の皮膚、粘膜組織でどのような役割を果たしているのかをゲノミクスのアプローチによりスクリーニングしていきたい。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
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