研究概要 |
本研究の目的は,ハイダイナミックレンジ(HDR)画像を人の知覚に基づいてディスプレイにリアルに表示する手法の開発である.これを以下の4つの手順で行う計画であった. 1.人の視覚特性に関する視覚・生理学の知見を調査し工学的手法を用いた視覚特性モデルの構築 2.視覚特性モデルを用いた,全輝度領域に対応可能な統一的なトーンリプロダクション手法の設計と実装 3.設計したトーンリプロダクション手法のリアルタイムアプリケーションの開発 4.評価方法の確立と開発した手法の検証 平成24年度は1.で開発したモデルの詳細を纏め,国内外の学会や論文で発表した.また,2.の設計方法の開発を行った. 1.では,強い光を見た後に発生する生理的な現象である,残像を表現するモデルを開発した.この成果はコンピュータグラフィクス分野のトップレベルの国際会議EUROGRAPHICS2012において発表した.国内では,2012年映像情報メディア学会年次大会などで発表した.さらに,光源の強さを考慮したパラメータを加えたモデルに拡張した.この成果を論文として纏め,国際ジャーナルComputers & Graphicsに掲載された.残像の色変化まで考慮した表示モデルは今までに提案されておらず,高評価を得た.さらに,提案したモデルは静止した光源にしか適用できなかったため,より一般的なシーンに対して適用できるように,時空間画像の考え方を用いて,移動する光源にも適用可能なモデルに改良した.これにより,移動する光源に対して尾を引いて現れる残像が表現できるようになった. 2.では,波長弁別閾を用いることで,明所視,薄明視,暗所視の各状態に対応した色の見え方を考慮した統一的なトーンリプロダクションの設計を行った.この手法では,動画などでシーンの明るさが連続的に変化する場合,既存手法の使い分けから生じる不自然な輝度変化を起こさない映像を作ることができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度開発した残像表示モデルを拡張し,光源移動に対しても残像を表現できるモデルとした.これにより,移動する光源に対して尾を引くような残像表現が可能になった.この拡張手法を纏めて研究速報として提出した.そして,波長弁別閾を考慮した統一的なトーンリプロダクション手法の設計に移行した.さらに今年度は,昨年度よりも積極的に外部発表機会を設け,研究成果を広く公表した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,平成25年度は,計画に基づいて研究を纏めることを目標に研究を行う.1.は完成したので,今後は2.,3.を中心に開発を行う.現在,2.の設計を行っている.これには,視覚特性を表したデータに基づく最適なパラメータを選ぶ必要があり,その方法を実験中である.これを,CPUを使って実装でき次第,3.に移行する.3.は実装にGPUを用いる.そのため,GPUの特性について学び,GPUの能力を引き出すことが必要になる.そして,リアルタイムアプリケーションの開発を行う.最後に,4.評価方法を確立するために,既存の様々な評価方法から,開発手法を評価するために必要な要素を取り出し,評価基準を設定する.そして,既存手法と比較し評価する.最後にこれらを論文としてまとめる.
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