研究概要 |
新しい分子変換法の開発は、有機化合物の革新的な合成戦略を提供する。その中でも化学的に不活性なC(sp^3)-H結合の変換は、現代有機合成化学においても未だに困難である。有機化合物に普遍的に存在するC(sp3)-H結合を、C(sp^3)-X結合(X=O,N,ハロゲン等)に直接変換できれば、これまで合成困難とされてきた新規化合物の効率的創出が可能となる。 我々はC-H活性化剤として、高い電子求引性をもつ丼オキシルラジカル種に着目した。μオキシルラジカル種により基質の電子豊富なC-H結合を選択的に開裂させ、生じる炭素ラジカル中間体を多様なラジカル受容体により捕捉する計画である。 昨年度は、アゾジカルボン酸ジエチルΦEAD)によるアミノ化反応を報告した。本年度は、DEADに代わりアゾジカルボン酸ビス(2,2,2-トリクロロエチル)を用いることにより、反応の有用性の向上に成功した。すなわち、生成物のヒドラジン誘導体を、亜鉛による還元条件に付すことで、対応する第1級アミンに効率的に変換することが可能となった。 また、ここまでの一連の研究をふまえ、Selectfluorによるフッ素化反応を新たに見出した。本手法は遷移金属を用いず触媒的にC(sp^3)-H結合をフッ素化した、世界で初めての例である。多様な含フッ素化合物をわずか1工程で合成できる本手法は、医薬品候補化合物などの迅速合成への応用が期待される。
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