研究概要 |
生物発光は分析法における検出原理として広く用いられているが、見方を変えれば生体深部でも利用可能な光機能性分子の励起エネルギー源として使用できる可能性がある。私は昨年度までにAmino luciferinを基盤分子として用いて、この発光特性を維持したまま光機能性分子を結合する分子設計法を確立し、モデル分子として近赤外生物発光基質を世界で始めて開発することに成功し、またこの基質を生細胞や生きた動物個体内でも使用可能であることも示していた。本年度、それぞれの基質に関する更なる分光学的性質、luciferase基質としての精査を行った後に、これらの結果をまとめて論文を投稿した結果、化学のトップジャーナルであるAngew. Chem. Int. Ed.に受理され、またEditorらよって"HotPaper"に選出されるなど高い評価を得た。 また、本年度は、光機能性分子の励起光源としての可能性をさらに広げるため、新しいluciferaseを用いて、発光によって生じたエネルギーをより短波長の領域に吸収をもつ光機能性分子にも転送可能なシステムの開発を行った。これまで用いていたfireflyの生物発光のシステムにおける基質からの発光波長はおよそ550nmであったが、この領域に吸収波長を持つ光機能性分子はそれほど多くなく、その光機能性分子の励起エネルギー源としての利用可能性は限定されていた。そこで私はfirefly luciferaseに比べて100倍以上の発光量を示し、450nm程度の短波長発光を示すNanoluc(ACS Chem. Biol., 2012, 7, 1848-57)を利用し、ベンジルグアニン誘導体によって効率的にラベル化されるSNAP-tagと組み合わせることで、生細胞内で、比較的短波長(~500nm)に吸収を持つ光機能性分子へもエネルギーを転送することが可能なシステムの構築を試み、これに成功した。この結果により、これまでに報告されている様々な光機能性分子や、チャネルロドプシンなどの光機能性タンパク質にも、エネルギーを転送することが可能になると考えられる。
|